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第4話 媚びる癖

「そ、そうか……」 「はい……」 「そんなに、俺の字は汚いか……?」 「ええと……その、はい……」  精一杯気を遣った言葉を選ぼうとしたのか、ヒーラーは一度口ごもり、諦めたように首肯した。俺はひどく恥ずかしくなって、顔を真っ赤にしながらヒーラーへの言い訳をまくし立てる。 「しっ、仕方ないだろう。手習いは受けたが、文字を書く機会なんて無かったし、あっても書類にサインするぐらいで、ああでも同じ場所で剣を学んだ連中はそういえば恋文の返事がどうとかで必死に練習していたが、俺にはそういう機会はなかったし、うう……」  言葉を重ねるごとに自分の情けなさが露呈し、最後には何も言えなくなって唸ることしかできなくなる。俺は教師に叱られる前の子どものように俯き、大きく肩を落とした。  そんな俺をヒーラーはびっくりしたような顔で眺めていたが、俺が顔を伏せてから少し経った後、堪えきれなくなったという様子で、小さく噴き出した。 「ふっ、ふふ……っ」  きょとんと顔を上げると、彼は小さな花が風に揺れるような可憐な顔で、口元を隠してくすくすと笑っていた。普段は宗教画のように麗しい姿をしている彼が、村娘のように自然に笑っている姿を見て、俺は恥ずかしさとは別の意味で顔が赤くなるのを感じる。  数秒後、自分の醜態に気付いた俺は、再び自分の頭を殴りつけた。何を考えているんだ。彼は俺を怖がっているんだ。見蕩れるなんてあってはならない。でも、可愛らしいと思うぐらいはいいんじゃないか? だが……。  頭を抱えてぐるぐると悩む俺に、ヒーラーはおろおろと狼狽する。 「あの、アレク、さま……?」 「い、いや何でもない、ちょっとその、お前の仕草が可愛らしいと思っただけだ。別に下心はない。いや、可愛らしいと言われるのも不快だったか? 失言を謝罪する。でも本当に下心はないんだ」  早口で言い訳を並べ、正面からヒーラーを見つめる。ヒーラーはぱちくりと目を何度も瞬かせた後、ふわりと柔らかく微笑んだ。 「下心、あっても……いいです、よ……」 「えっ」 「アレクさまに、なら、僕……」  机の上に置いた手に手を重ねられ、ヒーラーの深い森の湖面のような緑色の目に見つめられる。  恋人のように好意を伝えられている。流石の俺にもそれは分かったが、受け取るわけにはいかないのだと自分を律した。 「ヒーラー、それは勘違いだ」 「え……」 「お前のそれは、今まで搾取されてきたせいで歪んだ認識が癖になっているだけだ。俺はお前を害した側の人間だが……もう二度と、お前に酷いことはしないと誓う。だから、そんな風に男に媚びるようなことを言わなくても――」  そこまで言ったところで、ヒーラーの表情が絶望に染まりつつあることに気付いて言葉を止める。 「媚びているように、見えました、か……?」  悲しげに歪んだその目元には、見る見るうちに涙が溜まっていき、俺はまた自分が過ちを犯したのだと理解する。  そうだ。ヒーラーは好きでこんなことをしているわけじゃない。無意識のうちに媚びていただなんて気付いたら、ショックを受けるに決まっている。 「僕は、ただ……本当にっ……」 「ヒーラーっ……!」  ぽろぽろと涙をこぼす彼を見て、慌てて立ち上がる。 「す、すまない、そんなつもりじゃ……!」 「ひどい、です……アレクさま、だって……ほんとは、その気なのにっ……」  潤む目でちらりとヒーラーが見た方向に、俺も目を向ける。ズボンの下で窮屈そうに膨れ上がっている己の性器が、はっきりと存在を主張しているのが視界に入った。

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