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第12話 騒動の翌朝
朝の光が顔にかかり、僕はうめき声を上げながら寝返りを打つ。
誰にも邪魔されない穏やかな目覚め。だがそれに浸っている場合ではないとすぐに思い出し、僕は跳ね起きた。
「アレクさまっ……あれ?」
自分が眠っていたのは、ここ数日で見慣れた宿の自室だった。もっとも勇者が生きている頃は、自室で休養を取れたことなどなかったが、部屋の隅にまとめて置いてある自分の荷物が、ここが自室であるとハッキリと示している。
「僕、アレクさまに……ええと……」
混乱する思考を整理するために、昨日の出来事を順々に思い出す。
勇者と女の死体を回収した僕たちは、それを教会に預けて、宿に戻った。それで、部屋に放置される形になった僕は一人で考えて――これからのアレクとの関係を確定させてしまおうと思った。
僕の『おまじない』があったとはいえ、アレクが僕に対して性欲を抱いていたことは確かだ。彼の在り方を捻じ曲げるというのは嫌だったが、自分の感情は一旦置いておいて、彼に僕への欲望をしっかりと自覚してもらおう。
打算的な己と感情的な己の話し合いで行動を決め、僕はアレクの部屋へと向かった。
そんな計算をして赴いた僕だったが、アレクの部屋での自分の立ち振る舞いは、全て本心からのものだった。
彼に会いたかったというのも、彼の行動でころころと表情を変えたのも、下心はないと主張する彼に下心があってもいいと言ったのも、心の底から湧き出てくる感情に従った結果だった。
なのにアレクは、それに酷い言葉で返した。
『ヒーラー、それは勘違いだ』
『そんな風に男に媚びるようなことを言わなくても――』
素直に向けている好意を媚びていると表現され、怒りと悲しみが一緒になって込み上げた。誰にでも同じようなことを言う軽い男なのだと、思われているように感じた。
本当なのに。僕は本心で、あなたを愛しているのに。
その決定的な一言は口に出来ないまま、ぼくは意地悪をしたくなって、部屋に入ってからずっと反応していた彼の股間の膨らみを指摘した。
ここまでハッキリとした証拠があるのだから、流石に言い逃れはできないだろう。
だがアレクはその追及から逃げ出した。水浴びをすると言って去っていった彼を、僕は呆然と見送る。
胸の内に複雑な感情が渦巻いていた。単なる好意や悪意ではなく、好意があるからこそ抱いてしまうたくさんの感情。
僕は不満がぐるぐると胸の中で渦巻くのを感じながら彼の部屋を出て、行く当てもなく宿屋の一階へと降りていった。うろうろと目的もないまま歩いているうちに、ようやく自分の内面を解釈することに成功する。
自分は今、『拗ねている』のだ。彼の言動が思い通りにならなくて、僅かな苛立ちと不満をコントロールできなくなっているのだ。
それに気付いた瞬間、思わず小さく笑ってしまった。『拗ねる』だなんて、幼くて平和な感情を抱く日が来るなんて。支配者である勇者が死んで一日しか経っていないのに、平和ボケするのが早すぎる。
気を引き締めなければ。そう思って大きく嘆息した僕に声をかけてきたのは、宿屋の店主だった。
「おや、ヒーラーのお兄さん。何かお悩みですか?」
咄嗟に言葉で答えようとし、ギリギリで踏みとどまる。自分が自由意志を獲得していることは、できるだけ明かすべきではない。最低限の会話しかできないと思わせておいた方がいい。
黙り込んだ僕に、店主はすっと真面目な顔になって囁いてきた。
「これは剣士の旦那にも伝えておいてほしい独り言なんですがね。勇者様の死体を教会に置いておくのは得策ではありません」
「え……」
「この町の教会はかなり腐敗しておりましてね。もし事が露見すれば、体を巡る血の最後の一滴まで強請り取られますよ。それに……死体を拝見しましたが、内臓が食べられていないというのも問題です。理由は言わずともお分かりですね?」
店主の忠告に、僕はごくりと唾を飲み込んで、首を縦に振る。内臓が食べられていない。つまりそれは、勇者と女の内臓に毒があると魔獣が判断したということだろう。
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