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第14話 ずるい言い方
「――、ヒーラー……、ヒーラーっ……!」
「ん、んん……?」
肩を揺さぶられ、呼びかけられていることに意識がじんわりと気付いていく。そして、それがアレクの声だと悟った瞬間、僕は慌てて目を開けて飛び起きた。
「は、ひゃいっ……! う、けほ、ごほっ……」
勢いよく体を起こし、返事をしたが、急に喉を使ったせいで咳き込んでしまい、僕は喉を押さえて体を丸める。
それまで僕の肩に手を置いて揺さぶっていたアレクは、慌ててそんな僕を介抱しようとした。
「だ、大丈夫か!? 驚かせてすまなかった。ゆっくり呼吸していいからな」
「は、い……ケホッ……」
まだ日常的に喉を使うということに慣れていないせいで、彼に無用な心配をかけてしまっている。そのことに罪悪感を覚えて目を伏せ――遅れて、そんなことを考えている場合ではないということを思い出した。
「あ、あの……アレク、さまは……どうしてここ、に……?」
「……勝手に入ってすまない。昨日あんなことがあったばかりなのに……。ただ、昼になっても起きてこないからその、勇者のようにお前も死んでしまっているんじゃないかって不安になって……」
申し訳なさそうに語るアレクをぼんやりと見上げ、僕は安堵を覚えてしまっていた。
あんなことがあった。その通りだ。自分は昨夜、軽蔑に値する姿を散々彼に見せてしまった。それなのに彼は、なかなか起きてこない僕を案じて部屋に来るぐらい、まだ僕のことを大切にしてくれている。
こんなの、都合が良い夢のようだ。押し寄せる気まずさと罪悪感をよそに、僕の打算的な部分が計算を始め、彼の善良さを利用しようと結論づける。
「昨晩……? なんの、ことでしょう……?」
「え?」
「知らないうち、に……なにか、失礼なこと、でも……して、しまったで、しょうか……?」
あんな悪夢のような出来事など覚えがないとしらを切る。彼は少し言葉に迷った後、無理矢理笑顔を作ったようだった。
「いや、何でもない。俺の気のせいだったみたいだ。忘れてくれ」
ごめんなさい。あなたの優しさに甘えて、昨日の醜態はなかったことにさせてください。あの時、明確に拒絶されたという事実だけは、忘れないようにしますから。
密やかな祈りのようにそう思いながら、僕は曖昧な笑顔で彼に返す。彼はぴたりと固まった後、何故か彼自身の頭を拳で殴りつけた。
「アレクさまっ……!?」
「いや、何でもない。ちょっと雑念がよぎっただけだ。もう大丈夫」
昨日から幾度となく繰り返されているその奇行が心配になってしまいながらも、それ以上聞くこともできなくて、不安な目で彼を見上げる。
アレクはひとつ咳払いをすると、改めて僕に向き直った。
「ヒーラー。俺は今から手紙を教会に渡しに行くんだが……お前はどうする? 体調が優れないのなら、宿でゆっくりしてもらいたいんだが」
「いえ……僕も、行きます……」
ベッドから立ち上がり、できるだけ力強い眼差しで彼を見上げる。
「アレクさま、の……お役に立ちたい、んです……」
こう言えば、彼が断れないのは分かっていた。彼は僕の意思をできる限り尊重しようとしてくれる。そこにつけこんだ卑怯な言い方ではあるが、ついていかなければならない理由が僕にはあった。
店主が忠告した教会の腐敗。彼にそれを伝えるのは簡単だが、彼はそもそも敬虔な信徒のはずだ。教会が悪事を行っていると言って信じてもらえるか分からないし、仮に信じてもらえたとしても動揺から教会の人々の前でボロを出してしまう可能性が高い。
ならば事情を知っている自分が同伴して、彼が嵌められないかフォローするほうが現実的だ。
「……分かった、でも無理はするんじゃないぞ」
「はい、アレクさま」
迂闊で善良すぎるところのあるアレクを守らなければ。そう内心で決意しながら、僕は頷いた。
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