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第16話 見えない錠前
「『彼は常に我らと共にあり』」
「っ……!」
話の流れで何気なく口にされたそれは、この場では僕に対してだけ猛毒として作用する一言だった。
「どのような時でも神への祈りの門は開かれて――おや、ヒーラー殿。どうかされましたかな?」
善人のようにも悪人のようにも見えるとぼけ顔で、司祭は問いかけてくる。僕は締め付けるような苦しみを堪えるために胸を押さえ、表情を取り繕って司祭を見上げた。
「……ヒーラー、やはり調子が悪いのか?」
「おや、それはいけませんね。部屋を用意しますから、そちらで休まれてはいかがでしょう」
「そうだな、それがいい。ありがとうございます」
まずい。分断される。口車に乗っちゃダメだ。そう主張したいのに、怪しまれずそれを伝える方法が思いつかず、僕はただ恨めしい目を司祭に向ける。司祭は薄い微笑みでそれに返した。
「顔色も悪いようですし、少しの間、静かな場所でお休みください。アレク殿とは、その間に手紙の話をしておきますから」
いつの間にか近づいてきていた信徒に肩を抱かれ、表向きは優しいが実際は強引な手つきで別室へと誘導されてしまう。
反論の声を上げたくても、聖別された信徒の服に触れるだけで体から力が奪われ、声一つ上げられなくなる。
「着きましたよ、どうぞこちらでお休みください」
「……ありがとう、ございます」
怪しまれないよう口では感謝を述べたが、目では信徒を軽く睨みつけてしまった。信徒は気のせいか、こちらをバカにするような勝ち誇った表情で僕を一瞥すると、そのままドアを閉めて去っていってしまった。
その足音が遠ざかっていくのをしっかりと確認し、僕は部屋から脱出しようとドアへと向かう。
何か理由をつけてここから出て、できるだけ早くアレクと合流しなければ。
しかしドアノブに手をかけた瞬間、バチっと電流のような衝撃が走り、僕の手は弾かれてしまった。
「っ……、な、に……?」
ひりひりと痛む手を庇いながら、ドアノブを確認する。そこに刻まれていたのは、魔除けのまじないだった。
本来なら邪悪な存在が部屋に入らないようにするための紋様なのだろう。だが、今の僕にとってそれは、僕をこの部屋に閉じ込める見えない錠前として作用してしまっていた。
弾かれる痛みを我慢すれば、ドアを開けられるかもしれない。そう思って何度か挑戦してみたが、どうやらドア本体にも魔除けのまじないがかけられているようで、いくら押しても引いてもまるで岩でできた戸であるかのようにびくともしない。
「……はぁ……、やられた……」
僕の正体を知らない彼らが意図したことではないだろうが、今の僕は完全にこの密室に閉じ込められてしまった。
他に出口はないかと部屋の中を見回す。簡易宿泊所であるらしいここにはベッドしか家具がなく、外と繋がるのは一つしかないドアと、鉄格子の嵌められた小窓だけだ。
簡易宿泊所というより懲罰房なのかもしれない。そう思えるほど殺風景な部屋の様子を睨みつけ、僕はベッドへと腰掛ける。
仕方ない。今は休んで、体力を回復しよう。あの口ぶりでは後からアレクが迎えにきてくれるはずだ。その時にどんなやり取りを司祭としたのか聞き出して、後手にはなってしまうが対応するしかない。
深くため息をつき、打算的な己がそう結論づけたその時、何者かの足音が近づいてきて、僕のいる部屋のドアをあっさりと開けた。
好機だ。入ってきた人間を言いくるめて、外に出る口実を作ろう。
だがその目論見は、入室してきた男のにやけ顔を目にした瞬間、不可能であると分かってしまった。
「よお、お前が勇者パーティーの慰み者か?」
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