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第19話 見られた*
愕然と立ち尽くす彼の顔を認識し、僕の心に封じていたはずの荒れ狂う感情が舞い戻る。
アレクに見られた。よりにもよって、一番見られたくない姿を。言い訳のしようがないほど淫乱で、無様で、誰が相手でもいいと言っているところを、ハッキリと見られてしまった。
違うんです。今のは求められたから口にしただけで、本心ではそんなこと思っていないんです。誰でもいいわけない。あなたがいい。誰でもいいからあなたを求めたわけじゃない。
激流のようにうねる感情を言い訳として口にしようとしても、犯されて快楽に喘ぐ体は言うことを聞かず、僕はただ彼に手を伸ばして、彼の名を呼ぶことしかできない。
「アレク、さまぁ……!」
縋るように搾り出した僕の声を聞いた途端、正気に戻ったアレクは、取り憑かれたように夢中で僕を犯している男を勢いよく殴り飛ばした。
「な、なんだテメェ! いきなり何す――ぐぁっ!?」
怒りで顔を真っ赤にして、アレクは男を殴り続ける。それでも最後の理性で手加減をしているようで、男の顔は殴られてぐちゃぐちゃに歪んでいったが、命までは取られていなかった。
それでもこのまま続ければ、男は死んでしまう。
そう悟った僕は、ふらつく体をなんとか動かし、アレクはと縋りついた。
「アレクさまっ……もう、やめてくださいっ……!」
「はぁっ、はぁっ……! だが……!」
「もう、いいんです……。それに、僕が……淫乱なの、は……今に始まった、ことじゃ……」
大粒の涙を流しながら、アレクの服にしがみつくようにして懇願する。アレクはずっと掴んでいた男の胸ぐらから手を離すと、僕を包み込むようにそっと抱きしめてきた。
「そんなこと言わなくていい。……守れなくて、すまなかった」
ついさっきまで与えられていた苦しみとは真逆の、温かく優しい言葉と体温。それを全身から受け取った僕は、閉じ込めようとしていた感情が全て表に出てしまうのを感じた。
「アレクさま……アレクさまぁ……!」
泣きじゃくりながら、彼の体温を感じ続ける。
怖かった。嫌だった。慰み者として生きてきた自分とは無縁だったはずのその感情を、涙の合間に彼に吐露する。アレクはそんな僕が落ち着くまで、そっと頭を撫でてくれた。
うれしい。ごめんなさい。あなた以外に抱かれたくなかった。
思い上がった本音を涙の裏に押し隠し、僕はきつく目を閉じる。
「おやおや、これはいけませんねぇ」
ねっとりとまとわりつくような声色で呼びかけられ、僕とアレクはハッとドアの方へと目を向ける。そこにいたのは、教会を取り仕切るあの司祭だった。
「その男、魔族ではありませんか。今すぐ捕らえて、打ち殺さなければなりませんね」
「ま、待ってくれ! 彼は旅の仲間なんだ! 王都から手配されたメンバーなんだ! この通り首輪もしているから危険じゃない!」
「そのような報告、私は受けておりませんよ。現にこうして、そこの門番をこの魔族は誘惑したのでしょう? でなければ、神に仕える者の一人がこのような暴挙を働くはずがありません」
「そんなことっ……!」
アレクは反論しようとしたが、そのための材料がなく口ごもるしかなかったようだった。司祭はあられもない姿を晒している僕の肢体をまじまじと見つめると、にこりと柔らかに微笑んだ。
「ではこうしましょう。本当にこの魔族がヒトに逆らわず、首輪が正しく機能しているか確かめるのです」
「……どんな方法を、使うつもりですか」
強い警戒を込めて睨みつけるアレクに、司祭は聖人としての顔のまま答えた。
「聖獣様に判断してもらいましょう。苦しみを得ることはありませんよ。何も抵抗せず、清らかな心の持ち主であればね」
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