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第20話 地下への連行

「聖獣……? そんなものがこの教会にいるという話は聞いていないぞ」 「つい最近、この教会に現れたのです。麗しく、気高い方ですよ。聖獣様を一目見た他の町の者から、多額の寄付が寄せられるほどにね」  うっとりと語る司祭に、僕は警戒の目を向ける。このまま彼の話に乗ってもいいのか。だが現在、勇者の死体は教会の管理下にあるし、下手に逆らって各地の教会全てを敵に回すことになったら最悪だ。  聖獣の正体はわからないが、ここは従うのが最善か。 「アレクさま」  そっと袖を引いて、彼に呼びかける。彼は迷いに満ちた表情でこちらを見下ろし、そんな彼に僕はわずかに微笑む。 「僕は……パーティーの、ための、道具……です……。それを、証明……しま、す……」 「ヒーラー……、だが……!」  アレクは僕の言葉を否定しようとして失敗する。ここで迂闊に否定してしまえば、教会からの疑いの目はより深くなる。そこに思い至った彼は、悔しそうに顔を歪めて沈黙した。 「おやおや、魔族らしからぬ殊勝な言動。これは強い洗脳が施されているようにも見えますな」 「……聖獣の判断の話は受け入れる。だが俺も同席させてもらうぞ」 「ご自由に。あなたも聖獣様を見れば、その素晴らしさを理解することになりますよ」  敵意を込めて睨みつけるアレクの視線を司祭は軽く受けながし、周囲にやってきていた信徒たちへと指示を飛ばす。 「その魔族を連れていきなさい。聖獣様の前に出すに相応しい服装に着替えさせるのです」 「はい、司祭様」  信徒たちは僕の手を無理矢理引くと、アレクと引き離してどこかへ連れて行こうとする。 「ヒーラーっ……!」  悲痛な声でこちらを呼ぶ彼に振り向き、口の動きだけで意思を伝える。  だい、じょう、ぶ。  勝算はなかった。でも今はこうするしかなかった。司祭は聖獣に判断させると言った。苦しむこともないと。今は、その言葉を愚直に信じることしかできない。  だが僕のかすかな希望は、ほんの数十分後には粉々に打ち砕かれた。 「聖獣様は、地下においでなのですよ」  明かりを持つ司祭の先導で、僕たちは地下深くへと続く階段を降りて行った。  僕が着せられているのは聖別された真っ白な貫頭衣で、その下には何の衣服も身につけていない。両方の手首には魔力を吸い取る大きな腕輪がつけられ、抵抗のために魔法を使うことも封じられている。 「これでは、処刑場に罪人を連れて行くような扱いではないですか……!」  悔しそうに、少し後ろを歩いているアレクが小声で言う。司祭はやけに朗らかに返事をした。 「おやおや、聖獣様を処刑人扱いなどしてはいけませんよ。気分を害されたら、試される彼に危害が加わるかもしれないのですから」  真偽のわからない警告をされ、アレクはぐっと口を閉じる。僕は聖別された服のせいでぼんやりと鈍った思考の中、足元を見ながらただそれを聞いていた。 「到着しましたよ。ではアレク殿、彼に命令を」  司祭に促され、アレクは僕の前へと歩み出る。その手に握られているのは、首輪の鍵であるあの短剣だ。 「ヒーラー……。『これから何が起きても、それを受け入れろ』」  魔力を込めて口にされたその言葉に、僕の体はびくんと震え、首輪の支配によって意識が内側へと閉じ込められる。 「はい、アレクさま」  冷たい声色で返した言葉を受け取り、アレクは泣き出しそうなほど顔を歪めた。

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