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第27話 治す手立て

 自分が口にしていることがどれだけ許されざる内容なのかは、己が一番よく分かっている。これまで生きてきた中で培った良識も正義感も、剣士としての誇りも、全てを否定してしまうような邪で利己的な感情。  それが己の中にあることが恐ろしくて、だけどそんな自分に安堵もしている。規則や倫理よりも、彼の無事を喜んでいる自分で良かったと心から思ってしまっている。  俯き、拳を硬く握る。内心の葛藤が数粒の涙となって、膝へと落ちた。 「……その言葉を聞けて、安心しました」 「え……」 「あの子を罰する立場の人間に、あの子の命運を任せるわけにはいきませんからね」  顔を上げると、店主は口元に僅かに笑みを浮かべていた。見た目よりもどこか老獪に見えるその表情に戸惑いながらも、俺は彼に尋ねる。 「それは、どういう……」 「ヒーラーのあの子を、救う手立ての話です」  真摯な面持ちで話を切り出した店主に、俺は思わず身を乗り出していた。 「そ、そんなものがあるのか!? 頼む、教えてくれ! 俺にできることなら何でもするから、頼む、あの子を――!」  そこまで必死に懇願したところで、店主が驚きで目を丸くして固まっていることに気付き、急に恥ずかしくなって椅子に座り直す。 「す、すまない。興奮してしまって」 「いえ、ふふっ……そこまでの熱意がある方を疑うのは、むしろ失礼でしたね」  店主は苦笑し、机の上の軟膏の容器をこちらに少し押して近づけた。 「あの子の傷は、この軟膏で治癒しつつあります。この軟膏は、催淫作用だけではなく、傷を治すという意味でも夜魔に特に良く聞きますからね」 「そうなのか……」  もしかして最初にこの軟膏をヒーラーに渡したのも、彼の傷を案じたという理由もあったのかもしれない。店主の善意に密かに感謝しながら、俺は軟膏へと視線を向ける。 「だが、体の傷が治ってきても、彼が目覚める気配はない」 「ええ。それは表面上の傷しか治っていないからです。あの子が受けた最も惨い傷は、体の内側にあるのです」 「内側……」  店主が何のことを言っているかは、否応なしに理解できてしまった。『聖獣』に、信徒たちに、集まってきた獣たちに、彼は惨たらしく犯された。体の内側にも深い傷があるのは当然だ。  彼を陵辱した奴らを憎いと思う心が抑えきれず、俺の顔は知らずのうちに憎悪で歪む。そんな俺に、店主は咳払いをして気まずそうに言った。 「失礼とは思いましたが、剣士の旦那が出かけている間に、あの子の下半身を確認させてもらいました」 「なっ……!?」  衝撃は受けたが、下心のないものだということも分かったので、どう反応すればいいか分からずにただ俺は硬直する。店主は表情を取り繕うと、話を続けた。 「あの子の内側は傷だらけでしたが、ただの傷ではありませんでした。恐らく魔除けの刻印が入った異物でつけられた傷でしょう。……剣士の旦那、顔が怖いですよ。話は最後まで聞いてください」  暴漢たちへの憎悪に呑まれそうになっているところを窘められ、俺は正気を取り戻す。 「あの傷が自然に治癒することは不可能です。いつまでも延焼を続ける火傷のようなものですからね。ですが、この軟膏を『直接』傷に塗れば、治癒に近づけることも可能のはずです」  直接、という言葉を強調して、店主は言う。俺は仄かに嫌な予感を覚えながらも、彼に恐る恐る尋ねた。 「ですが、直接というのはどうやって塗るんです? 傷は腹の奥底まであるんでしょう?」 「ええ、下手に道具を使ってもむしろあの子の負担になるだけ。……ここまで言えば、旦那も察したんじゃないですか?」  店主はちらりと俺の下半身に目を向ける。俺は戸惑いと羞恥を込めて「本気なのか」という視線を店主に向けた。 「覚悟を決めてください。あなたは信念を曲げてまで、彼の無事を願っているのでしょう?」  冗談や揶揄いの意図が一切感じられない真剣な表情で促され、俺は数秒押し黙った後、軟膏の容器を受け取った。 「分かった、やってみよう」

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