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第30話 抱いていた幻想*

 潤んだ目で見上げられ、俺は反射的に動きを止める。  目を覚ましてくれた。でも今であってほしくなかった。寝込みを襲っている以外の何物でも無い酷い状況を、彼に見られたくなかった。  これは違うんだ。治療のためにやっているんだ。そう主張したいのに、パニックに陥った頭は何の言葉も口から発してはくれず、俺はただ硬直して、彼と見つめ合う。 「あぇ……ぼく、なん、でぇ……?」  ぼんやりとした目つきでうろうろと視線を彷徨わせ、自分と俺が下半身で繋がっていることを彼は認識する。それも何も言えないでいる俺へと視線を戻し、彼は不思議そうに言った。 「これ、ゆめぇ……?」 「えっ」 「こんな、うれしいこと……げんじつじゃ、ありえない……、きっと、ゆめ……」  彼は右手を持ち上げると、見下ろしている形の俺の顔に触れ、ペタペタと確かめるように何度も触った。幼さすら感じるその様子に、我慢しようとしていた愛しさが募り、俺は卑怯な手を使うことを決断する。 「そうだ。これは夢だ」 「アレク、さま……?」 「辛くて酷い夢だが、じきに覚める。だからそれまでどうか我慢してくれ」  返事を待たず、腰を動かし始める。返事を聞くのは怖かった。どうかこのまま夢だと思い込んで、行為が終わるまで微睡みの中にいてほしい。 「あっ、ああっ♡ ン、あっ♡ ゆめっ?♡ これ、ゆめぇ……っ?♡」 「そうだ、全部夢だ。……奥に入れるぞ、力を抜いてくれ」 「へ、あっ、ぇ……? お、ごっ、かは……っ♡♡」  最奥の先に進もうと腰を押しつけるも、なかなか向こう側まで先端は入らない。陵辱による傷跡はきっと、この奥にまで及んでいる。軟膏が塗られた自分の陰茎をそこまで入れなくてはいけない。  だが何度進入を試みても、緊張で硬くなった彼の体は俺のモノを迎え入れず、彼は目を見開き、苦しそうに体を反らせるばかりだ。 「くっ……どうすれば奥に入るんだ……っ」 「ハァッ、はぁっ……お、くぅ……?」  俺の独り言を聞き取り、ヒーラーは不思議そうに尋ねてくる。目を覚ましたら自分よりも大きな男に犯されていたという絶望的な状況であることは分かっているはずなのに、その顔は幸せそうに歪んでいた。 「おく、いっぱい、ついてぇ……♡ むりやり、こじあけて、いいからぁ……♡」 「だが、それではお前に苦痛がっ……!」 「いいのっ……♡ ゆめなんだから、いうとおりに、してっ……♡」  ふにゃふにゃとした喋り方で扇情的に要求され、俺は自分がどんな感情を抱いていいのか分からなくなった。 「いいのか? 本当に……夢だからって」 「ゆめだから、いいの……♡ ほんとの、アレクさまには……、こんなこと、言えない、から……♡」  ヒーラーは自分から俺の腰に足を絡めると、求めるように両腕を伸ばしてきた。 「ぼく、ほんとは……淫乱で、ひどいことされると、興奮して、最低で……だけど、淫乱なぼくを、アレクさまは……きっと、あいしてくれない、から……」  幸せそうでもあり、自己嫌悪で泣き出してしまいそうでもある表情で、彼は目を潤ませる。  ぽつりぽつりと吐き出されるそれは、紛れもないヒーラーの本音だった。  彼が淫蕩な存在であってほしくない。彼はただの被害者で、罪のない穢れなき存在であってほしい。  俺が抱いていた押しつけがましい理想のせいで、彼は苦悩していたのだ。彼は無垢な子どもではなく、共に肩を並べて戦ってきた立派な仲間だったのに、俺はそんな彼に一方的な幻想を抱いていた。 「……すまない、ヒーラー」 「え……?」

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