33 / 49
第33話 想いと誓い
「きょう……かい……?」
寝ぼけ眼でヒーラーは繰り返し、少し考えた後にさっと顔色を青くした。
「ヒッ、あ、あぁ……あぁぁ……!」
引きつったような悲鳴を上げ、頭を抱えて体を丸める彼を、俺は慌てて抱え起こす。
「大丈夫、大丈夫だ。もう全部終わったんだ」
「ッ、ううっ……おわっ、た……?」
「ああ、もうお前を傷つけた奴らは、この世のどこにもいないんだよ」
恐怖で震える背中を、何度も優しく撫でて、体温を分け与えるように優しく抱きしめる。俺が迂闊に記憶を刺激してしまったせいで、彼に辛いことを思い出させてしまった。
自責の念に駆られながら抱擁をじっと続けると、身を強張らせて震えていた彼は、いつしか落ち着きを取り戻していき、ぐったりと俺の胸にもたれかかって身を任せてきた。
「アレク、さま……」
「ああ」
「僕、あいつら、に……」
「いいんだ。もう、いいんだよ」
「アレクさまの、こと……死なせたく、なくて、それで……」
ぽつりぽつりと吐き出されたその言葉の意味を咀嚼し、胸の内に深い納得が満ちる。
そうか。彼があんな凶行に走ってしまったのは、俺に危機が迫っていると判断したからだったのか。
彼が単純に憎悪に呑まれたわけではないと知り、身勝手な安堵が込み上げる。俺はまだ、彼に幻想を抱いている。彼が俺に対して理想を見ているのと同様に。
どちらにせよ、今の彼の言葉が本当なら、今回の事件で引き起こされた惨劇の原因の一端は、俺の不甲斐なさにある。彼がその罪を追及される時が来たら、俺も同じ罰を受けるべきだ。
「よく、頑張ったな。ありがとう」
暗い決意とともに彼を改めて抱きしめる。彼は軽く目を閉じてそんな俺に身を預けていたが、不意に顔を上げると恐る恐る口を開いた。
「アレク、さま……僕、がんばり、ました……」
「ああ」
「だから……ご褒美が、ほしい、です……」
目を僅かに潤ませ、物欲しげな顔で彼はこちらを見上げる。きっと夜魔としての本能が、体を回復させるための精を求めているのだろう。
俺は、それを断るべきじゃない。こんな有様になっても俺の無事を願ってくれた彼に報いる方法がそれしかないのなら、大人しく誘いに乗るべきだ。
「ああ、いいぞ。何が欲しいんだ?」
優しく、できるだけ頼もしく見えるように俺は答える。彼は少し躊躇い、目を伏せて考え込んだ後、もう一度顔を上げて身を乗り出し――俺の唇に、そっと唇を重ねた。
一秒にも満たない、触れるだけのキス。もっと激しいものが来ると思っていた俺は、いじらしいまでにささやかなその行いに驚いて目を見開く。ヒーラーは、儚げに目を細めて微笑んだ。
「ありがとう、ございます……。これで、十分、です……」
「だが……」
「いいん、です……アレクさまが、お嫌なら……、僕は、自分でなんとか……します、から……」
悲壮な決意の籠もったその言葉に、彼がどうしてその結論に至ったのかを理解する。
『頼む……性欲があり余ってるなら、自慰でなんとかしてくれっ……』
彼に淫蕩に迫られた時に、口走ってしまった言葉。今思うと、あまりに身勝手で惨い発言だ。彼に対して理想を抱いているのは自分の問題で、彼は夜魔の本能から助けを求めるように精を欲しがっただけなのに。
「すまない……」
「え?」
「何と謝ったらいいか分からない。だが、これだけは言わせてくれ」
彼の肩を軽く掴み、愛の告白をするように正面から告げる。
「俺とお前は共犯者だ。お前が求めることを、今後、俺は拒絶しないとここに誓う」
ともだちにシェアしよう!

