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第34話 初めての好意
誠実な想いを込めて告げた誓いを耳にし、ヒーラーは急に目が覚めたような顔で目を丸くしていた。驚きから固まるその表情が愛しくて、俺は苦笑してしまう。
「拒絶しない、です、か……?」
「ああ」
「ええ、と……その、なんで……?」
不安と困惑で瞳を揺らしながら、無防備な表情で彼はこちらを見上げてくる。俺は自然と、彼の僅かに震える唇に口づけを落としていた。
「んっ……!?」
「……お前の献身に応えたいと思ったから。今は、その理由で納得してくれないか?」
唇を離し、至近距離から覗き込むように本心を伝える。彼はまだ、己の本性の一部を俺に知られたことに気付いていない。もしいつかそれに気付く日が来るとしたら、その時に自分の気持ちに答えを出そう。
少し卑怯な決意を胸に、彼の目を見つめていると、ぽかんと口を開けていた彼の顔はまるで熟れた果実のように真っ赤になっていった。
「えっ、ど、どうかしたか? 俺は、何か変なことでも」
「あ……アレクさま、が……キスして、くれた……、アレクさま、からっ……」
信じられないという面持ちで呟く彼の言葉に、自分が素面の状態で初めて、彼に好意を示したということに思い至る。
それを自覚した瞬間、俺の顔も初心な少年のように真っ赤に染まり、俺たちは互いに照れくささで目をそらしながらも、自然と重ねていた手の温度だけは感じ続けていた。
ドクドクと高鳴る鼓動をどう誤魔化すべきか分からず、俺は明後日の方向へと目を向ける。するとヒーラーは、重ねた手をそっと持ち上げ、恐る恐る問いかけてきた。
「本当に、拒絶…され、ないんです、か?」
「ああ、男に二言はない」
「じゃあ……今から、抱いて欲しいって、言って、も……?」
震える声で尋ねてきた彼の目はすっかり情欲で揺れていた。勇気を振り絞って問いかけたであろうその言葉に、俺は男として応えようとし――その直前、冷静な自分がその行動にストップをかける。
「すまない。早速だが前言撤回だ」
「えっ」
「まずは食事を摂ってくれ。次にゆっくり休んで、体を回復させるんだ。……それができたら、夜に体を重ねよう」
彼の手を強く握り返し、照れくさいのを我慢してハッキリと伝える。彼は呆気にとられながらさらに赤面し、それから世界一幸せそうな面持ちでくしゃりと微笑んだ。
「はい、アレクさま」
*
そこからの一日、俺は何にも集中できずにそわそわしていた。教会関連の調査では使い物にならず、様々な場所をたらい回しにされた末に、最終的に割れたガラスの掃除を任された。
呆けていて役立たずだからといって、騒動の中心にいた人物に任せる仕事ではないとも思ったが、黙々と作業できる環境はありがたかった。
ガラスを箒で集めながら、ふと遠くに置いてある勇者の棺を見る。棺の蓋は開いており、詰めかけた魔獣によって中身は荒らされていた。人としての原型をほとんど保っていないので、これから先俺たちが運ぶ時も、軽く背負える程度の箱に収まりそうで好都合だ。
仲間だった身としては、死体が荒らされたことに憤りを覚えるべきなのだろうが、そもそも最初に遺体を損壊したのは自分の判断なので何の感傷も抱けない。
それより今は、今夜のことだ。彼の求めに応じるとは決めたが、俺はうまくやれるのだろうか。また正気を失って野獣のように彼を犯すかもしれない。彼が求めているのだと言い訳をして、酷い言葉をかけてしまうかもしれない。
だが彼が本当にそれを求めているのなら、むしろそれでいいのではないか。いや、それはそれとして俺は、彼に傷ついてほしくない。大切にしたい。酷いことをしたくない。しかし、いざ求められた時、俺はどうすれば――
悶々と悩みながらしゃがみ込み、大きく息を吐く。作業は全く終わる気配がないのに、日は徐々に暮れようとしていた。
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