36 / 49

第36話 意地悪*

 至近距離で彼の顔を覗き込む。その頬はすっかり上気し、今から始まる行為への期待で呼吸が浅くなっている。  本当は今すぐにでも俺の唇を奪って貪りたいはずなのに、彼は胸の前でぎゅっと手を握って、その衝動に耐えているようだった。  積極的になって、俺に拒絶されるのを怖がっているのだ。過去の自分が招いたその健気な光景に、俺は最低な部類の興奮を抱いてしまう。 「キスをしても、いいか?」 「は、はい……」  まるで初めてのキスを待つように、未知への恐怖で震える彼の唇を優しく奪う。過去に彼がしていたのを真似て舌を入れると、彼は躊躇いがちに俺の舌に舌を絡めてきた。 「ん、んぅ……♡ ふ、っ、んぅ……♡」  気持ちよさそうに目を細め、だけど自分からは求めないようにする自制心を感じられる動きで、彼は長い長いキスに溺れる。俺自身、どこか甘い彼の唾液を舌で感じるごとに理性と建前が崩れ去ってしまうのを必死で耐えながら、もっと深く繋がりたいと、息も忘れてキスに夢中になってしまう。 「ぷはっ……けほ、こほ……」  これ以上はまずいと判断して口を離すと、ヒーラーはくったりとシーツに身を預けて、か細い呼吸を繰り返していた。 「すまない、やりすぎたか?」 「い、いいえっ……、すごく、嬉しくて……きもちよかった、ですっ……」  発情しきった眼差しで見つめられ、股間のものが痛いほど反応する。それを誤魔化すように俺は再び彼の唇を奪い、毒のように染みこむ熱を共有しながら、彼のシャツへと手をかけた。  ボタンをゆっくりと外していき、前をはだけさせる。その刺激だけで彼の体はぞくぞくと震えた。 「どこを、触ってほしい?」 「へっ……?」 「これは頑張ったお前へのねぎらいでもあるんだ。素直に、してほしいことを言ってくれ」  優しく声をかけると、彼はなぜか絶望的な表情になった。遅れてそれが『はしたない彼の本音』を暴く問いかけだと気づき、発言を訂正しようとする。 「いや、無理をして言う必要はない。俺が自分で――」 「む、胸をっ……」  上ずった声で主張した彼に驚き、俺は言葉を切る。彼は羞恥で死んでしまいそうな面持ちで、ボソボソと続けた。 「胸を、触ってください……。触られたい、です……」  本性を知られたくないという心と、俺に対して求める心がぶつかった末に吐き出されたであろうその言葉に、胸の奥底から愛しいという感情が込み上げる。  淫らな彼を愛せるかはまだ分からない。自分には彼を愛する資格はそもそもないのかもしれない。でも、淫らな己と戦う彼の姿は、今すぐ強引に体を暴きたくなるほど興奮を誘うものだった。 「分かった、じゃあ胸を触ることにするよ」 「は、はいっ……」  わざとハッキリ宣言すると、彼は様々な感情を表に出さないよう耐えるかのようにぎゅっと目を閉じて、与えられる刺激へと備えた。俺はそんな彼を意地悪な想いでじっくりと眺めた後、彼の胸の先端へと手を這わせる。  いつもは桃色で柔らかな見た目の彼の乳首は、まだ何にも触れられていないのにすっかり硬くなって、ぴんと立ち上がっていた。 「触っていないのに、もうこんなに硬くなっているんだな」 「ひぁ、アッ♡ ご、ごめんな、さいっ♡」  両胸の先端に指の腹で触れると、待ちに待った刺激に彼の体はガクンと震え、口からは甘い声と謝罪が発せられる。 「どうして謝るんだ? 悪いことなんてしてないだろう?」 「ひぅ、ンッ、あっ♡ ち、違うん、ですっ♡ べつに、アレクさまが来るまでっ、自分で、慰めてたわけじゃっ♡ ああっ♡」  聞いてもいないのに自白するようなことを口にする彼に、悪戯心で罰を与えるようにぐりっと強く乳首の先端を押しつぶす。 「あっ、アァーーー……っ♡♡ あ、うぅ……♡」

ともだちにシェアしよう!