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第45話 獣の襲撃

 ふらりと立ち上がり、洞窟の外に両手を広げる。自分が何故こんなことをしているのか分からない。 「ヒーラー、何をっ……!?」  アレクが焦った声で制止しようとしてくる。だけどもう止まらない。欲しくて欲しくて仕方がないものが目の前にある。 「おいで、ぼうや」  歌うように呟く。語りかけられた獣が、ハッキリとこちらを視認する。その股ぐらのものは大きく膨れ上がり、オスとしての使命を果たしたいのだと言葉がなくとも理解できた。 「ヒーラー、やめるんだっ……! ぐっ……!」  獣がアレクへと襲いかかる。狙っているメスの隣に他のオスがいたのだから当然だ。その動きをきっかけに獣たちは僕たちの存在に気付き、一斉にこちらへと殺到してきた。 「くっ! ヒーラー、こっちへ!」 「へ……?」  気持ちよく本能を解放していたところを遮られ、僕は手首を掴まれて洞窟の奥へと投げ飛ばされる。アレクは所持していた目隠しのまじないを全て使い、僕の姿を覆い隠した。 「この子には指一本触れさせない……! うおおおお……!!」  雄叫びを上げながら、アレクは獣たちへと斬りかかる。十頭以上いる獣たちはアレクを共通の敵として見定め、次々に彼へと襲いかかる。僕はしばらくの間、その様子をぼんやりと眺めていたが、ハッと正気に戻ると自分がしてしまったことの意味を遅れて理解した。  本能のままに獣を誘惑してしまった。あの獣たちは、発情した僕の匂いにつられてやってきたんだ。  顔を真っ青にしてアレクの戦いに助太刀しようとするも、今このまじないの中から一歩でも出たら、再び理性が本能に飲まれてしまうのは明白で、何も出来ないまま僕はアレクの戦いを見つめ続ける。  最悪だ。僕のせいで。自分を制御できなかった悔しさで涙がこぼれる。  泣いていても何の解決にもならない。合理的な自分はそう言っているのに、ではどうすればいいのかという案は一向に浮かんでこない。  一頭を切り伏せ、二頭を吹き飛ばし、徐々にアレクを襲う獣の数は減っていった。だがそれに比例してアレクが負う傷も深くなっていき、最後の一頭をたたき伏せる頃には、彼は満身創痍になっていた。 「はぁっ、はぁっ……」 「アレクさまっ……!」  敵が全ていなくなったことを確認し、僕は慌てて彼へと駆け寄る。多勢を一人で相手にした疲労と傷で、アレクは立っているのもやっとな様子だったが、すぐに治癒魔法を使えば命には関わらない程度の傷に見えた。  咄嗟に治癒魔法を使おうとし、それが発動しないことに気付く。 「治癒が、できれば……こんな傷っ……!」  悔しさで顔を歪めながらも彼に肩を貸し、自分が隠れていたところまで引きずっていく。町で薬は調達してある。まずは応急処置をしなければ。 「ぐっ、ヒーラー……怪我は、ないか……?」  痛みに呻きながら、それでもこちらを案じてくる彼に、僕は頬を伝う涙を何度も手で拭う。 「僕は大丈夫、です……ごめんなさい、ごめんなさいっ……」  許されるはずはないと分かっていても、止血をしながら動く口は止められなかった。  傷跡を舐めれば、きっと彼を治すことはできる。だけどそれをしたが最後、僕の意識は本能に飲み込まれ、動けない彼の子種を搾り取ってしまうだろう。  それは、嫌だ。彼の意思を無視して子供を作って、そんなことをしたらきっと、今度こそ彼に見捨てられる。魔族の子なんて要らないと言われる。  彼がそんな酷いことを言う人じゃないのは分かっている。でも、彼に子供を拒絶されたという記憶が疑心暗鬼となって僕の行動を阻害する。  その時、洞窟の外から物音と話し声が不意に聞こえてきた。

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