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4.クソガキと売れない男娼*
勇者の部屋は、何もなかった。
いや、部屋の中央に三人は座れそうなソファが一つ、ぽつんと置かれていた。
それだけだ。
ボロアパートだが、間取りは俺の部屋と同じで1R。
だが腐ってもここはゲーム世界。広さは20畳くらいはあるので狭くはない。
とは言え予想通り、勇者はここに住んでいる訳じゃないようだ。
家具も家電もなく、窓にはカーテン代わりなのか布がおざなりに垂れ下がってる。
他人を招くような部屋どころか、本人だって好き好んでここには来ないのだろう。
勇者は土足のまま部屋に入り、羽織っていた黒のローブをその辺に投げ捨てた。
「さっさと脱いだらどうです」
「……ずいぶん、せっかちなんだな」
男娼呼ばわりされたのは、ヴァレンとのセックスが筒抜けだったからだ。
ボロアパートなだけに、壁は薄いはず。
勇者は俺を男に股を開く奴だと確信し、更に貶しめるために男娼呼びをしたようだが、残念ながら事実なのでノーダメ。
だから俺は躊躇せずにシャツを脱いだ。
パンツも、下着も、靴も全部。
誘うような素振りはしない。
恐らく、コイツはストレートだ。
「へえ。綺麗なもんですね」
裸の俺を見て、腕組みをしながら勇者が意外そうな声を出す。
「どういう意味だよ」
「てっきり、奴隷にされてるのかと」
「は? 奴隷?」
「呪文痕、あると思ったんです。保持者 が無垢 を従わせる魔法。違法ですけどそこらじゅうで蔓延ってるので。……もしかして知らないんですか?」
「いや」
どきりとしつつ短く首を振ると、勇者は興味もないのか無反応だった。
なんだよそんな魔法。聞いたことないぞ。
奴隷魔法とか悪趣味すぎる。
でも、そうか。ゲームでの設定は別として、ここは現実の世界だ。
たぶん俺が知るゲーム設定とは違い、現実ならではのルールや魔法が多数存在している。
ヴァレンは、俺に魔法をかけている。
それは確実だ。
でもそれは奴隷とかそういうのじゃなくて、指定範囲から出られないとか、そういう類のもの。
保持者はなんの力も持たない俺みたいな存在を好きに扱える魔法を知っているようだけど、どうやらヴァレンはそれを俺にかけていないようだった。
「座れよ。俺がやる。どうせ男は相手にしたことないんだろ」
煽るように言うと、勇者は冷たい視線をよこしたが、何も言わずソファに深く座った。
追うように目の前に立つと勇者の視線は俺の股間に向いてしまう。既に全裸だ。
当然それが嫌な彼は必然的に俺を見上げる形になる。
それが面白くて笑うと、男の綺麗な眉が不快そうに顰められた。
至極緩慢に、その場に跪く。
その長い足の間に身体を入れて、男の穿いているズボンのベルトに手をかけた。
勇者は身動ぎもしなかった。
どうしてこんなことになったのか、これからどうするつもりなのか考えているのかもしれない。
ファスナーを下ろし、下着を開いてまだ眠っているそれを取り出す。
力のない状態でもそれはずっしりと重く太く、長大だった。
思わず唾を飲み込むと、頭上から微かに鼻で笑うような気配がする。
だから俺は、敢えて舌先を突き出して、彼を見上げた。
勇者の冷然と見下ろすその視線を受けながら、萎えた男根に舌を這わす。根元から、ゆっくりと。
彼もまた、俺の視線から逃れることはしない。互いに視線を合わせながら、ただその時間を過ごした。
意地になったのは、たぶん俺だけじゃない。
裏筋から亀頭にかけて舌を這わせ、何度も往復を繰り返し、満遍なく唾液を伸ばすように濡らす。
先端にキスをして、舌先で鈴口をくすぐる。見せつけるように舐め上げて、甘く食んで。
勇者を見上げながらやるのも嫌いじゃないが、そろそろ次の段階にいきたかったので、結局俺から視線を外した。
頑なに萎れたままのそれを今度は口内に招き入れる。
想像以上に口を開かなければならなくて、これで勃起したらどうなるのかと若干恐怖した。
違和感を覚えたのは、それから少し経ったあと。
段々と口に含むことが困難になり、俺は思わず愛撫する舌をやめて、硬くなった勇者から口を放した。
その姿に、息を呑んだ。
勇者のものは、大きく張り出したカリ首の下に、真珠をはめ込んだような丸い突起物がびっしり並んでいた。その突起物の間を太い血管が通り、まるで怒髪天を衝いているように荒ぶっている。
先端は俺の唾液と勇者の分泌液でぬらぬらと光り、呼吸をする度に微かに動いていて未知の生物のようだ。
根元に向かうほど突起物は大きくなり凸凹がなくなっているが、リングみたいな膨らみも確認できる。
でもそれってつまり……。
俺の逡巡を、勇者はちゃんと感じ取ったようだ。
「ああ、親族に獣族がいたみたいで。先祖返りですかね」
「……へえ」
頭上から降りかかる声に、見た目が人間でもそうじゃないパターンというか、そういうのもあるのかと頷く。
ひとことで言うと、勇者のペニスは凶悪だ。だが、今更怖気づくわけにはいかない。
再度それを口に含んで、必死に舌を動かす。
顎を大きく開けなければならないせいで、自然と目を瞑ってしまう。頬に力が入って、さぞかし今の俺はとんでもない顔をしているだろう。
舌先に触れる凹凸をなぞりながら、つるりとした先端の鈴口を優しく吸い上げる。
呑み込むように頬の内側に擦り付けるとビクリと口内で震えるのが分かる。
フェラチオは男娼として最低限の愛撫だ。尻を使わなかったとしても、口を使わない選択肢はない。
ストレートを相手にするのは、滅多にない。テクニックに自信がないわけじゃないが、根本的に同性相手だと反応しない者もいる。
勇者も最後まで無反応だと思ったが、なんとか勃たせることができて安心した。
その時の俺は、半ば意地で勇者の男根をしゃぶっていた。
勃起をさせた事に悦びさえ感じて、あとは男の最後までもっていけるかどうか、必死だった。
職業病だったのか、ゲイであることのプライドか、男としての矜持か。
恐らく全部。
「……下手ですね」
必死に含んで愛撫をしている俺の頭上に、溜め息が降ってきた。
冷水を浴びたように身体が凍る。
唐突に口の端から流れた涎に恥ずかしさを覚え、それを悟られないように勇者を見上げ口元を拭った。
既にすべてを咥え込むには不可能に育ったペニスを口から引き抜くと、唾液が無様に滴り落ちた。
「……こんなにしておいて、言うことかよ」
身体の冷えを悟られるわけにはいかなかった。
あくまで挑発的な俺に勇者は薄く笑い、逞しい男根をそのままに俺を見下ろしてくる。
頬、首筋、鎖骨──乳首。
視線が止まったのを不審に思うより、勇者の指がスッと伸びて避けることもできなかった。
「貴方の飼い主、いい趣味していますね」
左の乳頭に刺さるピアスを不意に触られた。
ただ掠っただけのそんな衝撃だったが、必要以上に身体が跳ねてしまう。
ヴァレンがいつだかの折檻で俺にくれたプレゼント。あの時の衝撃を思い出してしまうから、あまりここを弄られたくなかった。
誤魔化すように立ち上がり、両足を開いて勇者に乗り上げるようにソファに膝をつく。
体勢的に勇者の両肩に手を置くしかなくて、どうせならと恋人のように縋り付いた。
しっかりとした筋肉の感触がして、長身痩躯に見えてもかなり鍛えているとわかる。
「舐めただけで、そうなるんですか」
彼の視線が一瞬、俺の股間に向いてすぐに逸らされた。
琥珀色の瞳が、近すぎる距離の俺を映している。
「何言ってんだ。俺は男娼だぞ」
笑った。
客を相手にしておきながら、萎えている現実などゆるされない。
「男が好きなんですか」
「ああ」
唇をよせ、今にもくちづけしそうな距離で、囁く。
「知りもしない相手でも?」
「知らないから、いいんだろ」
もう黙らせようと唇が掠った時。
「こんなことしていて、死にたくならないんですか」
不自然なくらい、優しい声だった。
そこで俺は勇者から身体を引いた。
互いのものはとうに冷え切っていたし、これ以上は無駄だと明確に分かったからだ。
床に落とした衣類をさっさと身につけ、振り返る。
男は黒い靄を飼ったまま、悪びれもせず俺を見ていた。
それを見て、確信する。
コイツは最初から俺を抱くつもりなどなかった。
揶揄われていたのだ。
何が闇堕ちだ。
お前のその黒さは、生まれつきだろ。
そのまま勝手に地の底まで堕ちて、クソみたいな人生を歩めばいい。
「クソガキ」
吐き捨てて、ドアを閉めた。
その日、ヴァレンは予想通り帰ってこなかった。
部屋に戻るなりシャワーを浴びて、いつもと変わらずに過ごす。
モニター越しのクソドラマを流しながら、料理をして洗濯をして。
もそもそと食事を取り、カクテルを飲んで、今度は保持者達のドキュメンタリーをただ眺める。
歯を磨いて、眠くなるまで怠惰に過ごして、去って行く時間に息を潜めるだけ。
身体が売れなくなったら、どうやって生きていこう。
必要とされなくなったら、どうやって。
日本じゃなくても、結局直面するのは同じ現実だ。
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