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10.暴力と憐憫、憤懣と慰撫*

 すこし、気を失っていたのかもしれない。  気が付いたら車から降ろされ、訳も分からずボンネットに叩きつけられた。  グッと背中を押さえ込まれ、未だ力の入らない身体が簡単に沈む。  状況が飲み込めず目を白黒させていると、次第に手足に感覚が戻る。  気を失う直前に感じた石のような身体の重みは消え去っていた。魔法は解かれているみたいだ。  視界を巡らせると、日は落ちかけているのか菫色の空が遠くに見えた。ちぎれた雲が日光と合わさり灰に染まっている。  その下に、色のない山が見える。砂利や岩などでできているのか、山はその向こうにも先にも続いているようだ。  焦点を近付けると、白い柱のようなものがあった。  その上には緩いアーチ状の屋根と、細かい模様が彫られている石壁が見える。模様は様々な生き物の形が彫られ、確か、モンスターの姿もあるはずだ。  古代建築のような造りの建物は、さほど大きくもない。  でも、画面越しだとただ綺麗な建物だと思っていたけど、実際目にすると全然違う。  得体の知れない、冷たく厳粛な空気が漂っていて、何か不思議な力に満ちているような感覚がした。    聖属性の試練の間。  いつの間に、着いたのか。  目を瞬いた時、グッと下腹部を探られて身を固くした。  レスニカの手が、俺のズボンを引っ張ったからだ。 「っ……、は?」  予想外だった。  確かに20万ゴールド分働けと言っていたから、てっきりこれから獣族や獣人族相手をさせられると思っていた。俺は男娼だし、こんな扱いにも慣れている。  でもレスニカは、そんな俺を心底嫌悪して軽蔑していた。   だからまさか、コイツがこんな暴挙に出るなんて、考えもしてない。  レスニカは、暴れ出した俺の抵抗を腕を掴んで制御した。  剥ぎ取るように下ろされた下着とズボンが、膝下で丸まる。  もがいて、暴れて、どうにかこの手から逃れようとしたけど、どうにもできない。  外気を感じた尻に、すこし温い、柔らかい感触が掠める。  尻の間にそれが性急に割って入り、侵入を果たそうと突き進んできて──。 「……うそだろっ」  慣らしもせず、ローションも使わない、そんな無理にセックスはできない。  いや、したくない。  暴れる俺の抵抗は、圧倒的な力の差で片手でいなされる。  そもそもここ外だし試練の間だし!  いくら誰もいない、何もないからって、こんな行為をここでするなんてあり得ない。  神聖な場所じゃないのか? それに、モンスターとかアフソナの里に向かう奴とか、動物とか、そういうのに遭遇するかもしれない。  ていうか、一体どうしたんだ?  元々こいつはこんなことするようなキャラじゃない。  ゲーム内では、清廉潔白で品行方正で、曲がったことが大嫌いなキャラクターだった。おかげで面倒なクエストに自然と導かれ、そうやって物語は進んでいった。  重い過去や辛い未来、そんなものをたくさん抱えていて、でも主人公や仲間には文句一つ言わず、礼儀正しく行動していた。  目的のためなのか、女ともろくに話さないし、ましてや男なんて抱けないはずで、誰かを傷つけたりもしないような男だ。   「やめ、ろ!」  ああ、でも。  俺と出会った時のコイツは、そんなイメージをぶっ壊して、平然と毒を吐いていた。  それで俺は、コイツはずっと本心を隠していたのだと、改めてゲームキャラなんかじゃなくて、ちゃんと生きている人間なのだと理解した。  俺とは二度と会うこともないと思っていたんだろう。だからこそあの日のあいつは、普段は絶対に言いそうにもないことを言って、俺を挑発し馬鹿にさえした。  それからコイツはずっと、俺を前にして取り繕うことはしていない。  ──そっか。  コイツはずっと。  ずっと、怒っているんだ。  納得なんかしてない。  家族が殺された事も、信頼していた友人に裏切られた事も、〝全〟にならなきゃいけない事も。  ずっと腹が立っていて、こんな凶行に走るくらいには怒り狂っていて、目の前のものも、馬鹿な俺にも、この世界のすべてに、怒っている。  怒っているから、背中の靄は常に張り付いて、徐々に心を蝕み、結局それはレスニカを全へと近付けていく。  押さえつけられる痛みと疲れで息が上がる。酸素がうまく肺に入ってこない。大きな手で背中を押される度、傷つけられるんじゃないかと過剰に身体が跳ねる。  片腕をひねり上げられただけなのに、全身の力が抜けていくようだった。  強張る身体の奥へ、何かが入ろうとしてくる。  力を入れて必死に侵入を拒否する。  また、押し込まれそうになり、拒絶して、ぐっと押されて、押し出して──。 「っ……?」  何度目かの攻防で、ついには妙な空気が漂った。  背後の気配は変わらないが、恐怖はもう消え去っている。  だって、そんな、こういうのって、もっとなんかこう、あるだろ。    で、また尻に生ぬるい感触がくる。  もうそこで、我慢できなかった。 「ぶっ……くく……なぁ、まじで?」  堪えきれず笑い出すと、レスニカの動きが止まった。  抑えられた腕の力も入ってなさそうだったので、身をよじるとあっさり解放される。  緊迫した空気が一気に霧散した。 「……おまえそれ、勃ってないんだろ」  向き直ると、案の定萎えたペニスを出したままのレスニカが情けない格好で佇んでいる。  いや、俺も相当情けない姿だけど。  笑い続ける俺に、眉間に皺を寄せた男は、諦めたように息をついて髪をかき上げた。態勢を整えようとしたレスニカの腕を、そっと掴む。 「お前さ、もしかして知らないんじゃないの」 「……なに」 「セックス」  無言だ。  レスニカは慌てる様子も憤慨することもなく、ただ俺をじっと視ている。  口角があがる。  痛めつけられる可能性がないのなら、本領発揮だ。  俺は男娼。  一時の癒やしとその日だけの夢を客に与えて、現実を忘れさせるために身体を開いてきた。──なんて聞こえはいいけど、要はただ空っぽになってスッキリするための道具だ。  レスニカは、いけすかないクソ野郎だ。  でも、俺と同じで必死に生きている。  あがいてもがいて、苦しみながら、ひたすらに生きている。  俺以外に誰がコイツを、慰められる? 「教えてやるよ。セックスっていうのは──」  ボンネットに腰をかけさせたレスニカの脚の間に身体を入れた。  萎れたままのものにそっと、舌を這わせる。  口淫が嫌いじゃないことは、あの時で分かっている。  俺相手でも勃つことも。  脱ぎかけのズボンを放り投げ、バッグから取り出したローションを自身の指にたっぷりとつけて、レスニカのペニスを舐めながら、俺は自分で内部を解した。 「なあ……、モンスター、こないの」  充血し硬くなったレスニカのものは、初めて見た時と同様に、凶悪だ。大きなくびれと無数の凹凸のある幹。張り出したそれは太く長大で、決して全てを呑み込むことはできない。  先端の割れ目に舌先を尖らせ口に含むと、レスニカの腰が震えた。   「……ここには、入れない」  少し掠れたレスニカの声。  入れない?  荒廃した山に囲まれた試練の間。それ以外は何も見えない。  そこで思い出す。そう言えば、ゲームではセーブポイントがあったな、と。所謂不可侵区域だ。  もちろん現実の世界のここでそういったものは見当たらないが、何らかの結界が張られているということなのかもしれない。  咥えきれないほど育った熱は、俺の頬も上顎にも存在感をアピールし続けた。羅列している突起物が粘膜を擦ると、擽ったいような、背筋にぞわりとした感覚が走る。  ほんと、えげつないもの持ってるよな。  宿を出る前、そういうつもりだったから下準備はしてきてはいたけど、時間も経っているしどちらにしろ苦労はしそうだ。  よかった。コイツが変な性癖を持っていなくて。  腐っても力尽くでねじ伏せる行為に興奮しない男で助かった。じゃなきゃこんなの無理に挿入されたら、冗談抜きで事件だ。 「ゆび、貸して」  育ちきった男根を口から離し、男の上に跨がる。  ボンネットの上に乗り上げるのに手こずっていると、レスニカは何も言わず俺の尻を掴んで引き揚げた。  奴の太股に跨がるようにしながら、その力強い手に頬が緩む。  薄々気付いていたけど、コイツは根本的に、優しいんだろうな。  相手もそうだとまるで鏡のような反応を返す。  慎重に触れて、丁寧に舐めて、そっと肌を愛撫した。壊れもののように触れるだけで、同じように俺を傷つけない手つきになる。  目線だけが鋭く常に隙を探るような、手負いの野性動物を思い出させるけど。  落ちないように男の首に左手をかけて、俺の太股を支えるレスニカの左手を引き寄せた。  骨張った長い中指にキスをして、舌を這わせ、ゆっくり口に含む。  痛いくらいの視線に気付かないふりをして、唾液で濡れたその指を俺の後ろに導く。  つぷ、と粘膜のなかに潜り込ませた指は熱く長く、そして慎重だった。  既に柔らかくなったそこに力を入れて、息を吐く。  レスニカの指が入った後孔に、更に自身の指を潜り込ませる。躊躇して彷徨う男の指を誘導するように抜き差しをすると、ゆるゆると同じように動き始めた。  時折くちゅりと漏れる水音が無音の空間に響いている。  こんなところで、車の上で、何やっているんだろうな。  視線をレスニカに戻すと、バッチリと目が合う。  何も言うことはない。ただ、顔を寄せた。  互いの唇がほとんど触れているような距離。以前までの俺なら、迷わずその口を塞いでいただろう。  だが、くちびるが触れあう寸前で、思い直す。  キスをしたらこの可哀想で綺麗な勇者を穢してしまう気がした。そのまま、避けるように首筋に唇を寄せる。  この男が本当に童貞だとは思わないが、たしか俺より若かったはず。それに真っ直ぐで信念があって、地獄のような未来に一直線で、とにかく……。  キスはやめておくか。 「……はっ……ん、う」  徐々に抜き差しを速めていくうちに、慣れた快楽が背筋から中心に集まる。  感じるところを避けていると、レスニカの指が狙ったようにそこを擦る。その度にビクッと反応する俺の身体に気付いたのか、気が付けば執拗にそこを弄られた。  誤魔化しきれないくらいに勃ちあがった熱の先端から、透明な滴がレスニカの黒いシャツを汚した。  慌てて奴のシャツを上に引っ張ると、レスニカの視線がそこに落ちる。  不快に眉を寄せるのかと思ったが、意外なことに男はされるがまま、逞しい腹筋を晒し、俺の滴を受け止めた。  たぶんそれが、合図のようなものだった。  どちらからともなく指を抜き、そそり立った彼のものをそこに押し当てる。  少し膝の力を抜くと、自然と自重でレスニカのペニスが後孔に埋まっていく。 「……ぅ、あ」  想像以上に苦しい。  あれだけ解したのに、信じられないくらいそこが広がりきっているのが分かる。  ともすれば破られそうな気配に、必死に息を整えながら目を閉じて痛みを逃す。  汗が浮き出る。レスニカの首筋もしっとりとして、互いの体温が上がっているのが分かった。  途方もない時間をかけて呑み込んでいると、気が付けば背を仰け反らせていたらしい。  目を開けると、すっかり暗くなった空が見える。  星が、綺麗だ。 「……んっ」  左の乳頭をクリッと弄られて、変な声が出てしまった。  見下ろすと、レスニカの指がピアスの通った乳首を親指の腹で撫でたようだ。  ああ、そっか。  〝癒〟が仕込まれているピアスだっけ。  だから、傷は癒えるし痛みは少しですむ。  とはいえレスニカのものはこれまでにない凶悪さで、腹が膨れるような感覚がして苦しいうえに違和感も凄い。  太股が震える。  これ以上は呑み込めないから、体重をかけたくない。  じっとしている俺に、レスニカは何も言わない。ただ、ピアスのおかげで肥大した乳首を触り、腰を撫でている。  愛撫ではない、色気のない手つきだった。宥めるように、遠慮がちに肌を行き来するだけの。  なのに、俺は喘いだ。  だって、ナカ、イイ所に当たってる。あの凸凹のくびれが容赦なく俺の弱い場所を。  動いたら、やばい。  試しに少し力を入れるだけで、レスニカを強く感じてビクビクと腹筋が震えた。まただらしなく先走りが滴り落ちて、思わず自分のペニスの根元を握る。 「ん……ゃ……ば……っ」  短く息を吐いていると、悪戯に俺の乳首を触っていた手が消えて、突然グイッと持ち上げられた。  慌てて両手でレスニカの首にしがみつく。  一瞬宙に浮いた感覚がして、次にはひっくり返されていた。  ずいぶんゆっくりと下ろされたけど、それでもボンネットに背を打ち付ける音が出た。たいして痛くもなかったが、レスニカは着ていたジャケットを脱いで俺の下に素早く敷いた。  笑みがこぼれる俺と目線を合わせながら、レスニカは俺の両膝を掴み身体を進める。  息を止めた。  ぎゅっと背の下のジャケットを掴んで、その質量をやり過ごそうとする。  でも、駄目だった。  レスニカが僅かに動いただけで、内部が勝手に収縮して、頭が真っ白になるほど気持ちよくなる。  たぶん、奴は本当にゆっくりゆっくり、俺の内部を擦っただけだ。  それなのに俺は声すら出せず、次の瞬間には腰を突き出して、ダラダラと白濁を放っていた。 「……あっ……はぁ……っ」  絶頂に強張った身体が落ち着くまで、レスニカはじっと息を潜めていた。  過ぎた快感に虚ろな目で空を見上げていると、内部の硬いものがずる、と引き抜かれていく。  凄かった。  それだけで暴れるみたいに勝手に身体が跳ねて、とろとろと何かが中心から漏れ出る。  そしてまた時間をかけてそれが戻ってくると、脳みそが溶けそうな快楽に襲われる。  丁寧に、慎重に、焦れったいほどゆっくりと腰をグラインドされる。  過剰に反応する俺を気遣っていたのかもしれない。  なのにレスニカがゆっくりと腰を動かすほど、感じたことのない快楽が脳天を駆け巡り、気が付けば訳も分からないほど甘えた声を上げて果てていた。  ゆっくりがきつい。  きついけど、怖いくらい気持ちいい。  何度揺さぶられたのかもう分からなかった。  次には痙攣が止まらない腰を両手で掴まれ、レスニカが堪えるように目を閉じている。  俯いた男の顔を下から眺めていると、眉根を寄せて吐息を漏らす綺麗な顔が目に入る。直後に内壁に熱い飛沫を浴びて、レスニカの絶頂を感じ取った。  全身が軟体動物になったかのような、強烈な快感だった。  荒廃した大地に吹きすさぶ風はひどく冷たいはずなのに、俺もレスニカも寒さなど感じなかった。  どくどくと脈打つ男根の熱さ、絶頂後の火照り、真っ白な快感がずっと全身を襲っている。  紛れもなく、ほんもののセックスだった。  どうしようもないほど気持ちよすぎる、セックスだった。

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