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第2話
「俺は、ゲイじゃない。気持ち悪いこと言うなよ」
思いがけない告白を受けたことへの気恥ずかしさから、未熟さから、裕の気持ちを考えてやる余裕もなく、冷たくそう言い放ってしまっていた。裕の傷ついた悲しげな表情に、胸がずきんと痛んだ。
「ごめん」と言うと裕は飛び出すように教室を出て行った。
樹は金縛りにあったように、一歩も動けず、裕を呼び止めることもできなかった。必死で裕の名を呼ぼうと、引き留めようとするのに体も動かず声さえ出ない。
――裕、待てよ、待って!
腹に力を入れ声を思い切り出そうとする。もがくように身体を動かそうとする。しかし、それは叶わなかった。
次第に目の前が暗くなる。
樹は何が何だか分からなくなりパニックに陥った。
――裕、どこ?どこなんだよ!ゆう!!
「ゆう……」掠れた自分の声にはっとする。
喉の痛みと激しい心臓の鼓動に目を開けた。
ここが自分の寝室であることを徐々に認識していく。樹は唾をごくりと飲み込んだ。
また同じ夢だ。
現実に引き戻され頭が冴えてくるともう裕はこの世にいないのだということを思い出す。
裕が事故で亡くなってから半年が過ぎようとしていた。
裕が去っていく夢を見るのは今に始まったことではない。時折夢に現れては裕を思い出し後悔の念に囚われる。この10年ずっと続いていた。あの高校の卒業式、裕を傷つけてしまってから一度も裕には会っていない。一度も会わずに裕はこの世を去った。
裕を傷つけるようなことをしてしまった浅はかさをどれほど後悔したかしれない。自分のせいで裕は樹から離れてしまったのだ。
怖かったのだ。
突然の告白に心の準備ができていなかった。
だってそうだろう? まさか、同性に、親友にキスされて告白されるとは思いもしていなかったのだ。
裕の傷ついた表情が脳裏から離れない。
裕が亡くなってからは頻繁に過去の幻影が夢となって現れるようになっている。罪の意識と後悔が悪夢となるのだと樹は思った。
俺は一生この罪悪感を引きずるんだ。と、樹は覚悟した。親友を突き放し傷つけたのは自分自身なのだ。相手を思いやる余裕さえあれば、自分の反応も違っていたはずだ。それができなかったのが若さゆえだとしても、樹は裕を傷つけた自分を許すことはできなかった。
汗ばんだ身体が芯から冷えていく。
樹は不快感に顔を歪めベッドを出てバスルームに向かった。
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