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第8話
重なる唇の感触が熱く、心地いいとさえ思っている自分に驚愕する。
だんだん息苦しくなり鼻にかかった甘ったるい声が漏れ、恥ずかしさに体温がかっと上がった。
多嶋の舌は器用に樹の歯列の隙間から入り込み、大胆に絡ませてくる。
コニャックの香りが樹の身体の力を奪う。縋り付くように両手で多嶋の腕を握りしめていた。多嶋は片方の手で樹の腰を引き寄せ、シャツを引っ張り上げ始める。
我に返り、樹は首を横に振ってキスから逃れ、多嶋の手を握りしめ動きを止めた。
「な、なんで……?」
まず先に出た言葉は疑問だった。
息が上がり、胸が激しく波打つ。息を切らし多嶋を睨みつけた。そんな樹を冷静に観察している多嶋の表情からは何も読むことが出来ない。
「男にキスされて、気持ち悪かった?」と、落ち着いた声で聞かれ、ごくりと唾をのんだ。
動揺し、息さえまともにできない状態の樹と違い多嶋は落ち着き払っている。
きっとわかってる。この人はわかっていてそんなことを聞いたのだ。
樹が多嶋とのキスに酔いしれ夢中になっていたことをこの男はわかっている。そう樹は確信した。その途端怒りが腹の奥から込み上げてくる。
「お、俺……ゲイじゃない」
絞り出すようにそう言った言葉を多嶋は鼻で嗤った。
「知ってるさ。君がゲイじゃないことくらい。しかし、こっち側に引きずり込むことはできる。無理やりにでも」
多嶋の言っている意味がつかめず戸惑っている間もなく、腕を掴まれソファの上に押し倒された。一瞬のことで思考がついていかない。また唇が重なり、片手で両手首を頭の上で押さえ
つけられ、もう片方の手で顎を固定される。
身体をくねらせ、必死で抵抗しようと試みるが、両脚に乗りかかられて上手く動けない。
苦しいぐらいの激しいキスで頭がぼうっとする。舌が絡み合う淫らな水音が耳から脳に浸透し、体温を上げる。
身体すべてが熱い。下半身に熱が集中していくのを自覚し樹はショックのあまり茫然とした。
うそだろ?男に押さえつけられキスされ……興奮してる?
多嶋に自分がどんな状態なのか絶対に知られたくない。なのに、多嶋の脚で股間にこすりつけるように動かれるともう我慢が出来ず、塞がれた口から喘ぎ声を洩らしてしまう。背中を仰け反らせ、痺れるような快感に耐えるしかなかった。顎を押さえつけていた手がシャツのボタンをはずし、インナーを捲り上げ指が肌を掠めていく。その度に体が震えた。
「んんっんあぁっ――っ」
乳首をひっかくように刺激され、強い衝撃に身体が痙攣したように震えたと同時に、呻き声が喉からもれる。それは多嶋の口の中でくぐもった声となった。
ねっとりと舌を絡ませてくる。震えるような甘い快感が背筋を駆け抜け、樹を困惑させていた。今度は激しく動かれ、お互いの唾液が樹の口の端から流れ落ちる。
多嶋の息が荒くなっているのを否でも意識した。
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