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第11話

「店長、体調悪いなら休んでください」  電話の向こう側の七倉の声色は本気で心配しているように聞こえたが樹は聞く耳を持たなかった。 「いや、午後一の出勤で行くよ。大丈夫だから」  樹ははっきりそう言うと電話を切った。  身体は鉛のように重く、思うようには動かない。  散々多嶋の思うままに貫かれた。最後は出るものも出ず痛みだけが残った。まだ尻に異物感が残っている。  自分がどれほど乱れ、どんな痴態をさらしたのかわかりすぎるくらいわかっている。「俺がお前を変えてやる」と言った多嶋の言葉が耳から離れない。  俺は……変えられてしまった。  あんな経験をしたら元には戻れない気がする。いったい自分はこれからどうなるのか不安で仕方がない。ひとりでいると昨晩のことを思い出し、考え込んでしまう。だから何としても仕事に行きたかった。  目が覚めたとき、ベッドには多嶋の姿はなかった。ほっとした反面ムカついた。自分を一人置き去りにして出て行った多嶋が恨めしかった。  重い身体をゆっくりと起こし、バスルームへ向かい、鏡に映った自分の裸体を見た時には、息をのんだ。赤い斑点が体中につけられていたのだ。鎖骨から、胸、腹部、脚の付け根。散った赤い痕を目で追い、嫌悪で顔が歪み涙が溢れた。  俺は……変えられてしまった。憧れていた多嶋の手によって。  俺が何かしたのだろうか? また余計なことを言って、相手を挑発してしまったのだろうか? ありえなくはない。多分そうだ。温厚で寡黙な多嶋の琴線に触れてしまったのだ。  こんなことになっても多嶋を恨む気にはなれなかった。  なぜなら、多嶋は自分を傷つけはしなかった。  傷つけないように労わり限界まで樹を抱いた。男同士のセックスがどういうものなのかを樹の身体に刻み込むために。 「こっち側に引きずり込むことはできる。無理やりにでも」  多嶋はそう言った。  俺は多嶋の手によって引きずり込まれたのかもしれない。もう戻れないのかもしれない。  すでに諦めている自分に我に返った。  抵抗する気がない自分。受け入れたいと思っている自分。なぜなら身体はあの究極の悦楽を知って欲してしまっている。それを認識した途端ぞっとした。  自分自身が怖くてこれ以上何も考えたくない。  樹は勢いよくシャワーを出し、ところどころ痛む身体を熱い湯で解していった。  シャワーを浴び、身支度をし、キッチンで水を飲んだ後、カウンターにメモを見つけた。  多嶋のイメージそのものの達筆な文字。  鍵は預かっている。と。  樹の鍵を使って部屋を出たのだと知った。  鍵……返してもらわなきゃ。返してしてくれるだろうか?と一抹の不安がよぎる。何となく、これで終わらない予感がした。多嶋に執拗に求められ翻弄されてしまった後では、このまま終わるわけがないような気がする。  嫌悪を感じると同時に、どうして興奮したように身体が熱くなるのかさっぱり自分が理解できない。  もしかして……多嶋が自分に執着することを望んでいるのか?

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