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第17話
「なんかぁ、店長。最近彼女できました?」
探るような佐々木の視線を極力無視していたのに、天然なキャラクターの彼女はそれを感知しなかったようだ。
「いや、できてないけど?」
「おっかしいなぁ。でも、店長恋してるでしょ?」
「こ、恋?」
思わず素っ頓狂な声を出してしまい慌てる。
「はい。だって輝いてますもん」
「いや、あの。俺は女の子じゃないからね。恋したぐらいで輝かないと思うよ」
「何言ってんですか! 店長。男だって真剣な恋で輝きます」
そう断言され言い返す言葉もなかった。
「店長って爽やかさんじゃないですか! 目元涼しげなイケメンで。でも最近なんかエロいんですよねーふふふ」
「佐々木、気持ち悪いからやめなさい」
ちょっと本気で窘めると佐々木は「はぁーい」と言って持ち場へ戻って行った。
エロいと言われて少しドキッとした。
自分の身体の疼きを佐々木に悟られているような気分になる。多嶋と関係をもって5日が経とうとしている。多嶋は毎日樹の部屋に来ている。樹が疲れ切って眠ってしまうまで何度も強い快感の中に引きずり込まれ翻弄されることの繰り返しだった。眠ってしまうと朝になるまで熟睡してしまい、多嶋がいつ帰ったのかもわからない。自分が先に寝てしまうから多嶋の寝顔さえ見たことがないのだ。しかし、眼鏡をはずした顔は見ていた。眼鏡を外すと、多嶋の眼は比較的大きなくっきりとした二重だ。一昔前の二枚目俳優のような濃い顔立ちだった。
眼鏡をかけた印象とかけ離れていて、ついつい見惚れてしまう。
寝顔はどんな風だろう? と、無防備な寝顔を見たいと思っている自分に、これじゃまるで乙女のようじゃないかと苦笑してしまう。
そう言えば明日は土曜日だから初めて多嶋と休みが合う。今夜、泊まるだろうか? 明け方帰らずに樹のベッドで眠るだろうか? もしそうなったら初めて寝顔を見れるチャンスだ。樹の心は躍った。つい頬が緩んでしまう。
多嶋は休日を一緒に過ごしてくれるだろうか?
そうなればいいと思っている自分に樹ははっとした。何を考えてるんだ。そんなこと思うなんて……どうかしてる。
佐々木の言葉が脳裏を掠めた。
俺は――恋してるわけじゃない。樹は自分自身に言い聞かせるように否定した。
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