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第30話

 お前は俺を苦しめるために死んだのか?  なぜ死ななきゃならない? お前の望みを叶えたからって、死んじまったら何にもならないだろう? なぜなんだ? なぜだ?  そんな風に裕と自分を責め続けた。  苦しくて辛い、裕の遺書を思い出してはやるせなさだけが募る。  なぜ? と言う疑問に答えることのできる本人はいない。  功基は精神的に消耗し尽くしていた。突然、怒りに任せ、もう全てを清算したいという衝動にかられた。裕の私物をクローゼットから引っ張り出し床に放り投げていく。根こそぎ力任せに取り出し続けた。  息が上がりぜいぜいと鳴る。それでも功基はやめなかった。髪を振り乱し涙を迸らせながら乱暴に裕の私物を放り出していった。  寝室に放り出された裕の私物を目にし、功基はその服の山に顔を突っ伏し、肩を震わせ泣いた。涙が枯れ果てるまで、初めて裕の死後、号泣した。  裕、お前は許せるのか? 俺は樹に本気になってる。樹が好きなんだ。好きで好きで狂ってしまいそうだ。それでいいのか? 裕――?  泣き叫びながら裕に訴えかける。かすかに裕の香りが残る衣服に埋もれ、功基は自分自身と裕に問い続けた。  功基  あなたが好きだ。好きすぎて狂ってしまいそうなほど。  それほど好きだから、もうダメなんだ。  自分に自信がない。いつも物心ついたころからこんな感じで自分に自信がなくて、努力に努力を重ねてこれだけやったんだからきっと大丈夫って言い聞かせて今までやってきたんだ。  そんなこと知ってるか。功基は僕より僕のこと理解しているものね。  功基が贔屓にしている鳴海さんところのカフェの店長。高校出る時まで親友だったんだ。ずっと好きだった。初恋だった人。  慎重に慎重を重ねる僕の性格を理解してる功基ならわかるよね。  告白するまで、懸命に意思表示していたつもりだったんだ。だけど、告白したら、けんもほろろに振られちゃったよ。 「俺はゲイじゃない。気持ち悪いこというな」  その言葉が僕の記憶からどうしても消えないんだ。この10年ずっと消えない。樹を見たらもうダメだ。心が壊れてしまいそうだ。いや、もう壊れかけてる。  樹をこっちの世界に引きずり込んで思い知らせてやりたいって思ってしまう。  功基ならきっとできる。その考えがどうしても拭えないんだ。  でも僕がいたら功基は絶対しないでしょ。僕はもう、ダメだ。樹のことも功基のことも好きすぎてダメなんだ。  好きだから  好きだから  最後の僕の望みを叶えて、功基。  僕がいなくなったら、樹を僕たちの世界に引きずり込んで、僕の代わりにして。  お願い功基。  樹に分からせたいんだ。  樹は僕たちの世界のひとりなんだってこと。  好きだから  好きだから  裕はまだ何か言いたかったに違いない。  好きだから  その言葉で終わってしまった遺書。  功基の胸を苦しめる好きだからと言う文字。好きだから、だから死んでいなくなるなんておかしいだろう? 何度も繰り返した疑問。  裕、俺は樹に惚れた。惚れてしまったんだ。だから、いや、お前の言葉を使うなら好きだからお前の思い通りには出来ない。  功基は今度は壁にもたれて涙を流した。  全てを樹に話そう。それでもう―――終わりにしよう。樹を好きだから手放そう。心が張り裂けそうなほど好きだから。

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