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第9話 意外な嫉妬

しかし 「うん…っ、いつも傷心中は裕介がそばに居てくれるから……」 意外なことに、裕介は俺のスーツの裾を掴んで、俺を見上げてきたのだ。 微かに震える指先が、上質なウールの生地をきゅっと握り締めている。 向けられた瞳は潤んでいて、冗談めかした雰囲気など何処にもなかった。 「だから…断られて、僕すごく心細かったんだよ…?」 あまりに予想外の言葉に、俺の思考は一瞬でフリーズし、言葉を失った。 頭の中が真っ白になり、心臓がドクンと大きく脈打つ。 裕介の口から出た「心細かった」という素直な吐露が、ダイレクトに脳の処理能力を狂わせていく。 「ご、ごめんって。なんかほら、他のやつからも相談受けてさ、忙しかっただけだから」 動揺を隠すように、引き攣った笑みを浮かべながら咄嗟に出た言葉は── 〝他の人間を出せば自分よりそっちを選んだって嫉妬してくれるかもしれない〟という あまりにも身勝手で、ドス黒い屈折した支配欲と歪んだ独占欲だった。 裕介の意識を何が何でも俺だけに縛り付けておきたいという 醜い本音が透けて見えるような言い訳。 すると、裕介はそろそろと俺から目線を外して俯くと あからさまに落胆した様子で、まるで彼氏に放置されて拗ねた彼女のように口を開いた。 「…そ、そうだよね。快翔って、人気者だし…ワガママ言っちゃ、ダメだよね」 弱々しく呟かれたその言葉に、胸が痛む。 せっかく裕介が素直になってくれたのに、今の言葉はやっぱりマイナスだった…? と、激しい焦燥感が脳裏を過ったのも束の間。 「でも…!他の人ばっかり構ってるの、ちょっと嫌だった…」 再び見上げてくる裕介の真っ直ぐな視線に射抜かれ 俺は喉の奥が引き攣るのを感じながら、金縛りに遭ったように身動きが取れなくなった。 嫌だった、というストレートな嫉妬の言葉。 それがどれほど俺の理性を揺さぶるか、こいつは分かっていない。 「え、そんなに…?」 掠れた声でどうにかそれだけを絞り出す。 「だって、辛いとき快翔がいないとなんか落ち着かなくて……そばにいて欲しいの、快翔しかいないんだもん…っ」 必死に訴えかけてくる裕介の言葉の重量に、目眩がしそうだった。 〝快翔しかいない〟という言葉が、劇薬のように胸の奥に深く突き刺さって抜けなくなった。 心臓の特等席を容赦なく撃ち抜かれ、本当に弓矢に刺された気分だ。 それに加え、他の奴の名前を出して嫉妬させようなどと考えていた自分の卑小さが 裕介の曇りなき眼と純粋な言葉に暴かれ、激しい自己嫌悪が俺を襲った。 こんなに純粋に俺を求めてくれているのに、俺は何て薄汚い駆け引きをしていたのだろうか。 俺が反応に困って固まっていたからか 裕介は俺の沈黙を拒絶と捉えたのか ハッとしたように俺のスーツから手を離し、また俯いてしまった。

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