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第10話 カクテルの王様

「ごめん。こういうこと言われるの、気持ち悪い…?」 不安げに揺れる視線と、拒絶を恐れるような小さな肩。 その姿を見て、これ以上こいつを不安にさせてたまるかと 俺はどう動かしていいか分からなくなった両手を泳がせ、咄嗟に言葉を紡いだ。 「い、いや?全然…むしろ、嬉しい……けど」 本音が半分以上漏れ出たようなマヌケな返答だったが、その効果は絶大だった。 すると、裕介は犬が帰ってきた主人にしっぽを振るように、パッと表情を輝かせて 「えっ、本当…?!」 と、あからさまに嬉しそうな声を上げた。 さっきまでの陰りなど嘘のように、瞳をキラキラと輝かせる現金な姿がたまらなく愛おしい。 「ほんとほんと、だから今日はパァっと飲み行こう?」 俺はいつもの調子を取り戻そうと、わざと明るいトーンで裕介の肩を軽く叩いた。 「うん!行きたい…!」 弾んだ声で答える裕介を見て、胸の奥が熱く疼くのを止められなかった。 ◆◇◆◇ その日の夜─── 結局いつもの居酒屋じゃなく、個室がある落ち着いたバーに連れて行った。 喧騒から遮断されたその空間は 落とされた照明と静かに流れるジャズの旋律が心地よく、大人の隠れ家のような雰囲気を醸し出している。 「快翔ってこういうとこよく来るの?」 「まあね」 嘘だ。一度来たきりで、別に何度も来てるわけじゃない。 裕介と二人きりになりたくて静かなバーを選んだだけだ。 いつもの居酒屋では周囲の目が気になって落ち着かないが、ここなら誰にも邪魔されない。 カウンター席じゃなく、テーブル席のソファに並んで座ると、自然と距離が近い。 上質なレザーのソファは適度に沈み込み 二人の肩が触れ合うか触れないかの絶妙な距離感を強制してくる。 「何飲む?」 「えっと…じゃあこの『ファジーネーブル』てやつ」 裕介がメニューを指差す。 それはピーチリキュールとオレンジジュースのカクテルだ。 選ぶものまで可愛い。 お酒にあまり強くない裕介らしいチョイスに、自然と口元が緩む。 「じゃあ俺はマティーニにしようかな」 「まてぃーに?」 聞き慣れない響きだったのか、裕介が不思議そうに首を傾げる。 「カクテルの王様って呼ばれてる、めちゃくちゃ強いお酒だよ」 「ほえ~~…僕には無理そう…っ」 感心したようにため息をもらす裕介を、俺は少し揶揄うような視線で見つめた。 「ひと口ならいけんじゃない?俺の少し分けたげよっか」 「え!なら…ちょっとだけ飲んでみたいかも……!」 好奇心に目を輝かせる姿は、まるで大人の世界を覗き見たがる子供のようだ。 「ふふ、決まりね」 ◆◇◆◇ 暫ししてグラスが揃うと、裕介と乾杯する。 カチン、とガラスの澄んだ音が静かな個室に響き渡る。

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