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「紅ー! そっちいい?」  混雑が引き始めた昼過ぎの学食で、プレートへ昼食をのせた武藤政宗(むとうまさむね)が大きな声をかけてきた。紅はそっと手をあげて振る。  テーブルの向かいの席にやってきた政宗の、プレートいっぱいに並んだ大盛メニューの数々に今日も感心する。 「もう食事すんじゃうな。二限選択体育だったから、着替えで遅くなっちまったんだ」  そう言う政宗はジャージ姿で、ほぼ体育時間の服装と変わらなさそうだ。 「紅ってさぁ、インプリ・ペット興味あっただろ?」  紅は皿に残ったパスタの最後のひと口を食べようとして、思わず政宗の顔を見た。 「弟がペット飼いたいってずっと言ってて。けど動物アレルギーで無理だったから、誕生日にって親が買ってやったんだよ」 「へぇ」  政宗の父親は地元で有名な不動産会社を経営していて、裕福な家だ。  にっと笑った政宗が、バッグからスマホを取り出す。片手で食事を口へ放り込みながら、もう一方でスマホを操作し画面を見せてきた。  十歳くらいの少年に抱かれた茶毛の柴犬、中型犬にしてはやや小ぶりだ。実際のサイズよりも小ぶりなところも、インプリ・ペットの特徴だ。 「俺はね、生き物の方がいいと思ってたワケよ」  紅はフォークを皿へ置き、正宗のスマホを受けとるとじっくり写真を見る。どうみても本物の柴犬にしか見えない。 「けどな、これがまた、かわいくって。ちゃんと生き物なの。紅が欲しがる理由、なんかわかるって思った」 「やっぱそんなにいいんだ?」  憧れはするものの、実物を見たことのない紅は無意識に身を乗り出してしまう。  スマホを政宗へ返すと、彼は思いついたような顔をする。 「じゃあ、俺んち来る?見せてやるよ」 「いいのか?」  味噌汁をひと息に平らげて、正宗は大きくうなずく。 「じゃー、今週末は? 土日なら弟も学校休みでちょうどいいし」  あっというまに、週末正宗の家に出かけることが決まった。けれど、嬉しい反面迷いもあった。 (勢いで約束したけど……)  インプリ・ペットに憧れはあるけれど、高額なので紅は今すぐ手に入るとは思っていない。  少しずつ貯金をしていて、社会人になってからの楽しみにとっておく。そのつもりだった。 (本物見たら絶対欲しくなりそう…)

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