6 / 8

1-6

 バス停に到着した紅は、まもなくやってきたバスに乗ると、最後列の座席へ腰を下ろした。  大学進学にあたって、紅は実家を出てひとり暮らしを始めた。  もともと紅は実家から通える進学先を探していた。けれど、高校三年のとき、好きだった友人がひとり暮らししたいらしいと知り、進路をこっそり真似た。 (ひとり暮らし同士、行き来できたらとか、考えててほんと俺って愚か……)  紅が告白したせいかはわからないけれど、試験の当日、志望校の試験会場に彼の姿はなかった。  告白以来、元友人とはまったく話さなくなっていて、結局真相はわからないままだった。 (きっと俺のせいだよな)  車窓から、夕陽がしずんでいく、オレンジ色に染まる景色を眺めながら、もう何度思ったかわからない後悔がまた始まる。  家へ向かうバスは川沿いの道路を走っていて、その景色が高校時代に見たものとそっくりなせいだ。  停留所に到着したバスが、待っていた乗客を乗せ始めた。川にかかる橋を眺め、高三の頃拾った黒い犬を思い出す。 (クロ、無事だといいな)  振られた日に拾ってきた黒い大型犬は、飼い主を探し始めてすぐいなくなってしまった。名前をつけては愛着がわくのでよくないと母には言われたけれど、こっそりつけてかわいがっていた。  姿を消したあの夜、クロのいた実家のリビングは窓ガラスが割られ、荒らされていた。警察に通報してクロのことも伝えたけれど、犯人は捕まっていないしクロも見つからないままだった。 「?」  川岸の草むらの中に、銀色の光の点滅が見えた気がする。  運転手はまだ乗車する客の対応をしている。  紅は目をこらして見ると、再び光の点滅が始まった。 (助けないと!)  クロを拾ったときの感覚に似ていて、なぜか救いを求められている気がした。  確かめずにはいられない。しかし、バスの扉が閉まり、動きだしてしまう。 「すす、すみません! おります!!」  震えながらも大声を懸命に出すと、運転手は快く対応してくれた。ありがとうございますと乗客へも含めてあいさつすると、降車口から飛び降りた。  橋の下を、紅の腰あたりまで高さの枯草が覆っている。春の初めで背の低い雑草が若い緑を広げ始めていた。  枯草の隙間で銀色の光の点滅は続いていて、紅は草の間を急いで進む。 「こ……これ、まさか……」  たどりついた光源には、大きな卵が眠っていた。両腕で抱えられるくらいのサイズだ。  抱き上げるとまるで紅が来るのを待っていたかのように、光の点滅はすぐに消えてしまった。  インプリ・ペットの出荷時の状態にそっくりだ。先ほど政宗の家で、何枚もの写真を見せてもらったので、実感がある。 (誰かの落とし物か?)  配送で届くインプリ・ペットの卵は、厳重に梱包され、注文者のもとへ届くといわれている。それに高額な商品なので、簡単にそれも中身だけ落とすとも思えない。 「まさか、捨てられたのか?」  購入してすぐ捨てるとは考えにくいけれど、紅は手にした卵をさらに強く抱きしめてほおずりしてやった。 (とりあえず持って帰って、明日警察へ届けるか)  憧れの存在を一晩だけそばに置いてみたくなった。

ともだちにシェアしよう!