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拾ったインプリ・ペットの卵を孵化させてしまった紅は、苦し紛れに貼紙を作り、翌日拾った橋の下へ貼り付けておいた。誰も見ず気づかないことを願うも、とりあえず責任は果たした気になれた。
「おー、これがクロね」
数日後、大学が終わったあと、部活のなかった政宗が紅の部屋へやってきた。弟のインプリ・ペット「小鉄」を見せてもらっていたし、本物だと共感して欲しくて招いた。
「クロ、政宗は俺の友達だから、遊んでいいぞ」
ローテーブルを挟んで政宗と向かい合って座り、紅の膝にあごをのせて丸くなるクロに声をかけた。小鉄ならその後、素直に紅の膝へのってきておとなしく撫でさせてくれていた。同じように行動するはずだ。
けれど、クロは政宗の方へ向かおうとしない。それどころか、体をこわばらせ紅にしがみついてくる。
「不良品なんじゃねえ?」
「もしかして初期不良とかなのか?それで卵のまま捨てられてたとか?」
インプリ・ペットは、犯罪行為をのぞいて飼い主の指示に必ず従う。飼い主がOKを出せば、他の人間にも素直に懐いて甘えていく。
「それか、紅がほんとは俺のこと嫌ってる……とか?」
飼い主の本心までくみ取って動くAIペットなので、その可能性は疑いたくなるだろう。
だが、政宗に疑われたことに腹が立ってしまった。
「んなわけねーじゃん!」
思わず大声を出してしまい、すぐに政宗にごめんと謝る。
政宗は紅がゲイだと知っても引くこともなく、友人として付き合ってくれる。大学では失敗しないよう周りと距離を置いて過ごそうと思っていたけれど、誰にも頼らず大学生活を過ごすのは難航していた。そんなとき、助けてくれたのが政宗だった。
今では大切な友人として、頼りにしている。
「わりわり、そうだよなぁ」
その間もクロは紅の膝の上から、政宗を威嚇し続けている。
「わかった、遊ばなくていいから、ここにいて?」
すると、わんとひとつ鳴いて体の力が抜け、落ち着いた。
「俺以外の人に会うの初めてだからか?」
「小鉄はそんなことなかったぞ。なんかそいつ、インプリ・ペットらしくねーんだよな」
インプリ・ペットは少数の企業で独占製造している。なので、数社のホームページをくまなく見ればすぐに製造中の動物の種類を確認できた。
しかし、カーリーコーテッドレトリバーの文字はどこにもなかった。
「製造に失敗したから捨てたとか?」
「一流企業がそんなことしなくね?」
政宗と考えてみたけれど、答えは出ない。
すると政宗がスマホのメッセージ画面に写真を開いて見せてくる。
「あとさ、クロ大きくなってねぇ?」
「そうか?」
毎日見ているので紅はそれほど気にならなかった。
政宗には、誤って孵化させたとき撮った写真だけ送っていた。数日後の今の姿と見比べた政宗は不思議がっている。
言われて写真と比べてみると、確かにひとまわり成長している。インプリ・ペットはずっと同じサイズで、育つはずがない。
「え、じゃあこれ、本物の犬?どうしよ、この部屋ペット禁止で……」
「や、本物の犬は卵から生まれないって。けど、わけわかんねーやつ、置いてて大丈夫か?」
言われて膝の上でくつろぐクロの姿を眺めるけれど、全く問題があるように思えなかった。脅威にも感じず、癒されてしまう。
「……しばらく、飼ってみようかな。きっとインプリ・ペットだよ」
「だと、いいんだけどな」
紅の膝の上でうとうとし始めたクロへ、政宗がこっそり手を伸ばし、背中を撫でた。
「ガゥ!」
すると飛び起きて威嚇声を発した。
「クロやめろ! 政宗に吠えるな」
紅にいわれると、おとなしくなり体を小さくしている。
「やっぱ、メーカーに問い合わせてみねぇ? 引き取ってくれるかもだし」
「まだ、わからないだろ!」
またしても大きな声を出してしまい、紅は政宗から視線をはずして下を向く。膝の上のクロがこちらを見上げ、首をかしげた。
(拾ったクロにそっくりなんだよ。返すなんてしたくない)
初めに拾ってすぐに姿を消したクロは、生きた犬だった。
飼い主に従順な態度を見せないことが不良品と言われても、もし生き物であれば当たり前のことだ。それなら紅がしつけをすればいい。
紅は卵から生まれたクロそっくりの黒犬を、このままそばに起きたいと強く思うようになっていた。
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