12 / 33
2-4
クロが大型犬サイズにまで成長したので、インプリ・ペットである可能性はなくなった。
卵から孵化したことと急成長は、本物の犬にもあてはまらない。
政宗は気になるのか調べ続けているけれど、情報が見つかる様子はなかった。紅も一応調べてはみるものの、正直なところ何者でもよく、おろそかになっていた。
クロが大型犬化して一週間が経つ。
(大きくなったし、部屋に室内にとじこもってたら運動不足だよな)
紅は休日に河川敷の公園にあるドッグランヘ連れて行くことを決めた。なので、今日は帰りにクロ用の首輪とリードを買う。
インプリ・ペットなら飼い主のひと声でいうことを聞くので、道具はいらない。しかし、クロは違う存在なので、念のため用意することにした。
(ずっと一緒にいて、のんびり過ごせたらすごく落ち着くのに)
落とし主は?この部屋で一緒に暮らせる?
考えなければならないこともあるけれど、クロを見るとつい後回しにしてしまう。
講義が二限目からの朝は、クロとゆっくり朝食をとってから出かけることにしていた。以前は朝にもバイトを入れていたが、今はクロとすごす癒しの時間が少しでも欲しかった。
(恋人とこんな風に過ごせたら最高なんだよなぁ)
満たされているにも関わらず、ちらりと欲が顔を出す。
クロを拾って介抱したときの本心は、まだ消えていなかった。わがままな考えで、まだ凝りてないのかと自分を戒める。
ローテーブルの隣で一緒に朝食をとるクロをのぞき込むと、突然首を起こしてのしかかられた。
「ちょっ、こら」
腿へのり、顔中をべろべろと舐めてくる。食事中だと苦情をいいたいけれど、それ以上に甘えられて嬉しくなってしまう。
次第にエスカレートして、両肩へ体重をかけられると不意打ちにバランスを崩し、後方へ倒れてしまった。
「って……」
幸いカーペットだったので頭の強打は避けられたが、自分が大型犬サイズになったことをクロは気づいていないのかもしれない。
「落ち着けって。お前はもう、小さくないんだから、こんなふうに飛びついたら…」
腹の上に何か弾力のある硬い塊を押し付けられている。クロの体の一部だろうけれど、足ではなさそうだ。
「わぅぅ……」
低い鳴き声をさせながら、何かを押し付け続けている。むしろこすりつけられているようでもある。
(まさか…?人相手に?そんなことって…)
発情期のペットが、飼い主や家族相手にこすりつけることはあるらしい。
「ふぅ、ふぅ……」
冷静に考える反面、クロの荒い息が顔にかかり襲われている立場を急に自覚する。紅はだんだん怖くなってきた。
「じ、時間ないから! 離れろ」
獰猛な動物に襲い掛かられたら、こんな恐怖を感じるのかもしれない。
「くぅん……」
言葉が通じたのか急に大人しくなり、クロは言うことを聞いて紅の体の上からどいた。名残惜しそうにこちらを見てくるので、申し訳ない気にもなる。
まさか恋人だったらいいのに、という気持ちを読み取られてしまったのかもしれない。
(けど、それはインプリ・ペットの場合だろ)
インプリ・ペットのAI機能が飼い主の感情変化を読み取り、求められた行動を取るものがある。だとしても、さすがに飼い主を押し倒すまではきっとしない。
「あ、あとのごはん、ちゃんと食べとけよ!」
ガチャガチャと音を立てて食器を流しへ片付ける。
(いつもみたいにじゃれてきただけだよな?)
そう考えて紅は落ち着こうとする。
まだ出発には早い時間だったけれど、慌てて部屋を出ると駅まで走った。
「紅!」
階段を下り始めるとき、知らない誰かに呼ばれた気がしたけれど、イヤホンを両耳へ入れて聞こえないふりをした。
ともだちにシェアしよう!

