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「これ、あげるからかぶれよ。サイズ合うといいけど」  玄関からあがり、クローゼットを開ける。たまに使っているキャップの中から、一番大きいものをクロに渡す。 「紅の、帽子? 使っていいの」 「耳、苦しくない?」  新しいおもちゃでももらったように、クロは目をきらきらさせている。すっかり泣き止んで、耳をキャップの中へ押し込む。 「ありがとう! 紅が使ってた帽子! 紅の匂いがする」  匂いのことを言われ、自分自身をかがれているような気がして恥ずかしくなってくる。 「いい~におい~」  かぶったキャップをはずし、鼻先にあてて深呼吸を始めた。慌ててクロの手から帽子を奪い取る。 「何やってんだ、やめろよ!」 「なんで、なんで!紅の匂い、好きなんだよ」  背中側へキャップを隠すと、追いかけてクロがまとわりついてくる。黒犬のときのじゃれようと似ていて、かわいらしい。  笑いながらキャップを行ったり来たりさせていると、強引に抱きしめられた。 「痛っ!」  ケガをした腕へ力を加えられたので、思わず声が出た。とっさにクロは手を離す。 「ごめん! ケガのとこ、触っちゃった! 大丈夫? 血、出た?」 「大丈夫だって、傷も大したことないんだから」 「ほんとに?」  うなずくと、もう一度腕の傷には触れないように、正面から抱き着いてくる。  紅も背中へ腕を回し、慰めるようにさすってやった。すると、紅の腰に硬いものがあたる。 「クロ……」 「ふぅ……いい匂いだね、紅……」  ため息をつきながら、紅の髪へ鼻先を入れ、匂いを吸いこんでいるらしい。背中に回されたクロの手のひらは熱く、衣服越しにじんわりと伝わってくる。 (……発情してる?)  ただの生理的な反応ではなく、紅の匂い自体に興奮しているようにも見える。 (クロはたぶん雄で?でも俺も男で……人の姿だけど俺とは種族が違うし、そんなことあるわけ……)  同性のしかも異種族に欲情するのか疑問だけれど、紅は自分だってとかえりみる。 (なくもないか…けど…この姿のクロになら、いいかも……)  流されて抱かれる妄想をしてしまうけれど、浅はかだとすぐに思いとどまった。  ただ男の生理現象はわかるので、とりあえず発散させればいいかと考える。 「ふぅ、ふぅ、紅……」 「クロ……出してきたら?」  紅にのり、腰を揺らしていたクロが止まる。 「え、なに?」 「だってお前、それ……辛いだろ? だからトイレで……」  頬を上気させ呼吸を荒くしたまま、きょとんと紅の顔を覗き込んでくる。 「出すってなに、おしっこ? 出ないよ」 「そうじゃなくて」  クロは最近まで子犬だった。大人になったばかりで自分で処理する方法を知らないのかもしれない。 (お、俺が教えるのか……?)  ぞくりと腹の奥が疼く。初めての経験を奪うなんて背徳的だ。紅は戸惑うけれど同時に興奮を覚えてしまった。  クロの膨らんだ腰あたりを指さして、できるだけ淡々と説明する。 「勃ったら擦って……だ、出すんだよ。そしてら落ち着くから」 「治し方知ってるの!? 紅の匂いかいだりするとこうなるよ。痛いくらい」  やはり知らないらしい。カーペットへ座らせ、ベッドを背もたれにさせて、ズボンの前を広げるよう伝えた。  隣に座ってやり方をある程度まで教えたら、紅は風呂場へ移動して、クロが処理を済ませるまで待つつもりだ。  クロは下着から重量のある茎を取り出し、上下に擦り始めた。 (なっ、すごい大きさ……)  男としては悔しいけれど、クロを恋人候補として気になり始めた紅は、興味深く見てしまう。 「手で包んで、上下に擦ってみて」 「んっ……? うぅ……」  懸命に擦ってはいるけれど、一向に発散まで進まない。 「紅、ずっと痛い……どくどくする……」  限界が近いのなら、思うまま擦ればいい。怖くてできないのだろうか。  涙目になりながら、隣に座る紅へ訴えてくる。かわいそうになってきて、つい、手助けをしてしまった。 「っあ!」  クロの手へ紅の手を添えて、擦る速度をあげてやる。  大人になったばかりとは思えない、筋張って硬度のある茎の先から、たちまち透明な粘液があふれ出す。 「紅、紅、何か、くるっ!」  息を荒くし、必死にクロが訴えてくる。 「そうそう、いいよ。そのまま出して」  近くにあったティッシュボックスから数枚引き抜いて、先端へ添えてやる。その瞬間、どぷんと白濁が勢いよく吐きだされた。  手早く拭き取って丸め、ゴミ箱へ捨ててやると、ぼんやりした顔でクロがこちらを見てくる。 「治まっただろ?」 「……うん、もう痛くないしそわそわしなくなった…紅すごいね…」  瞳を輝かせて見つめてくるので、下心を見透かされないか不安になる。 「でも、こんなことは自分でやるものだからな」 「えっ、そうなの?」  つい手伝ってしまったことを紅が謝ると、慌てて衣服を整えたクロも謝り出した。 「紅にイヤな思いさせてごめんね。そうだよね、こんなとこ触ってもらうなんていけないよね」 「クロは知らなかったしうまくできなかったから、仕方ないよ」  しょんぼりと耳を下げ尻尾も垂れた様子がかわいそうになり、紅はフォローしてしまう。 「ほんと?」 「あとはそうだな……す、好きな人になら触ってもらってもいい……かな」  照れつつ言うと、目を丸くしたクロがじっと見つめてくる。 「好きな人はいいの! じゃあまた紅に触ってもらいたい」 「なっ……」  曇りのない瞳がまっすぐ紅をとらえ続けている。紅は思わず心臓が跳ねた。  けれどまだ大人になったばかりのクロだ。きっと、体の変化に惑わされているだけで、紅への好意は恋愛としてのものではないだろう。 「何言ってんだよ」 「だめなの?」  好みの男から告白された気になって舞い上がりかけるが、こういうときこそ落ち着かなければ。それに相手は、心はきっとまだ子供なクロだ。 「自分が好きでも、相手もそうじゃないとしちゃだめなんだ」  もっともらしいことを言って、クロを諦めさせようとする。 「紅は俺のこと嫌い?」  そんなはずはない。人の姿に変われるようになってから、クロは犬の姿のとき以上に紅の心だけでなく体ごと優しく包んでくれている。 「……嫌いじゃないよ」 「じゃあいいよね?」  さらに距離を詰めてくるクロから離れるため、紅は立ち上がり浴室へ向かった。 「紅!」 「お、お風呂洗ってくるから」 「ねぇ紅!」 「濡れるから開けるなよ」  脱衣所まで追いかけてきたクロへ言うと、閉めた浴室の扉へ向かって強めに出したシャワーの冷水をかけた。

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