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大学の講義中も、クロは紅の隣を陣取っている。政宗がいるときは、紅を挟む形で講義を受けている。
席が決まっていて入室できない講義は、校舎棟に面した芝生から紅の様子を見守っていた。教授や他の生徒に不審がられないか、心配ではある。
クロはまだ、耳と尻尾を完全に消すことができない。紅のあげた帽子をかぶり、尻尾は全体を隠すため、すそ長めのロングカーディガンを着てもらうことにした。
「バイト先にもついてきてんのか」
「さすがにバイト中は帰ってもらってるけど」
身の周りに起きる不運を政宗には話したことがあった。
昼食になり、学食へ移動した。先に席を取ると、政宗が料理を選びに行く。
「今日も弁当か?」
「今日はサンドイッチだよ」
クロはリュックサックを背負っており、その中からふたり分の弁当を取り出し渡された。
留守番中に料理が得意になったクロは、弁当まで作ってくれる。
「政宗も食べたい? 紅の友達だから、明日から作ってあげるよ!」
「俺はいい。メシ、買って来る」
はっきりと断った政宗は、音を立ててイスへバッグを置くと財布だけ持って学食の列に並んだ。
「政宗、怒ってる?」
「そんなことないと思うけど」
クロがずっとついて回るようになってから、政宗は時折苛立ちを見せる。学生でもない他人、人といえるかわからない存在がいつもそばにいて、居づらいのかもしれない。
「デザートとか、買ってくる。ちょっと待ってて」
「紅、俺も行く!」
いいからと念を押して、政宗のあとを追いかけた。
入学してから今までわざと友人を作らないようにしてきた紅にとって、政宗は唯一心を許せる友人だ。ちょうどよい距離感を取ってくれるし、恋愛ごとについての話も一切しない。
(それに政宗は全然タイプじゃないから、一緒にいても好きにならないし)
政宗は紅と同じで、他人に世話を焼きたいタイプらしい。何かしようとしても断られる。
(そんな性格だから、クロの弁当も断ったってことだろうな)
「俺もちょっと買う」
政宗へ声をかけて後ろへ並ぼうとすると、政宗も列を出て並び直してくれた。
「弁当じゃ足りねーの?」
「デザート買おうと思って」
ふたりだけで話すのは久しぶりかもしれない。とりあえずトレイを取り、料理の並ぶレーンを進んでいく。
学食には限定数の特別メニューがあり、今日は鉄板焼肉定食と、メインコーナーに掲げてある。
「大盛で!」
政宗は、残り少ない特別メニューを注文できて満足げだ。
熱い鉄板の上に、炒めた野菜と焼き肉が山盛りになっている。ソースの焦げる香ばしい匂いがただよってきて、食欲をそそる。
ご飯も味噌汁も、全て大盛を選ぶのを見ていると、それだけでも腹が膨れてくる。
紅は何ものっていないトレイへ、フルーツサラダとヨーグルトを置き、それぞれで会計をすます。
「紅!」
少し離れた座席でクロが立ち上がり、手を振っている。
「あの姿でも犬みたいな懐き方してんだな」
隣で政宗が、小声で言う。大人しく待っていられず、こちらへ向かってこようとする。
「わ、おっと、えっ……紅!」
政宗が騒ぎ出したので隣を見ると、トレイが紅の方へ傾いた。じゅうじゅうと肉と野菜を焼く鉄板ごとひっくり返って、紅の顔めがけてとんでくる。
「紅!」
抱き止められて紅は熱した鉄板の直撃を避けられた。
「熱っ!」
「クロ!」
抱き止めてくれたクロを見上げると、顔が歪んでいた。腕で熱した鉄板を跳ねのけたらしく、手首から肘にかけて湯気の立つ肉や野菜が絡まっていた。
さらに熱い味噌汁もかぶったようだ。
自分の代わりに熱い痛い思いをさせてしまった。
「ごめん、大丈夫か!?」
政宗が慌てて聞いてくるが、声は震えている。わざとこんなことをするヤツでないことは、紅もよくわかっている。
「大丈夫だよ。紅にかからなくてよかった」
混雑する学食で、周囲にいた一部の学生が片付けを手伝ってくれている。
(手当しないと! 服も替えさせてやらないと)
表情が固まっている政宗へ寄り、言う。
「政宗ごめん、クロの手当てしたいから、今日は帰るな」
「悪い……何で手が滑ったのか、よくわからねぇ」
確かにトレイのひっくり返り方は不自然だった気がした。けれど、どうしてそうなったのか紅にもわからない。
「今度ちゃんとお詫びさせてくれ!」
謝る政宗にクロはいいよと言って笑っている。
紅の不運に巻き込まれたせいで、クロがケガをした。
(さっき鉄板…不自然に浮いたよな?)
水道でクロの腕を洗い、たまたまロッカーに置いてあった体育用の着替えをクロに使わせた。小さいけれどどうにか着てくれた。
大学の学生どころか人間でもないクロを、保健室でみてもらうわけにもいかない。我慢させるのはかわいそうだったけれど、家で手当てすることにした。
午後の授業には出ず、クロのケガが心配でバイトも休んで一緒に帰宅する。紅の足取りは重かった。
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