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 事故のせいで買い物は中止になってしまい、政宗と分かれて帰ることにした。 「そうだ! 冷蔵庫空っぽだよ。買い物してっていい?」  紅を気分転換させたくて、帰り道を遠回りして近所のスーパーへ向かう。  政宗と分かれたあとから、紅の表情が暗い。政宗に心配させないように、気を張っていたのだろう。  気分を変えようと、クロは明るく話しかける。 「紅、紅、今日何食べたい? オムライス、作る?」  紅にじゃれながら、喜んでくれそうな話題を探す。すっかり陽は沈んでいて、あたりは暗い。 「……さっきの事故も俺が原因?」  地面を見ながら聞かれた。直接狙われたのが紅ではなく、政宗だったこともやはり気づいていた。  人通りの少ない川沿いの道を歩きながら、励まそうと話し続ける。 「紅は悪くないよ。ロリサがいけないんだ」  ロリサは狡いことをする。紅が嫌がることをして、心を削らせているのかもしれない。 「俺のせいで政宗まで危ない目に遭うのはいやだな」 「じゃあ、政宗のことも俺が守るから!紅といつも一緒だし、きっと大丈夫だよ」  そう言っても、紅の表情は晴れなかった。  歩くうちに、生まれ直しの卵を紅が拾ってくれた橋の下を通る。  紅には二度救われた。これから先も、ずっと元気に生きていて欲しい。 (そのためには、ロリサも兄たちも倒さないといけない)  地獄の魔女の化粧品原料にされた生き物は、全て殺されている。紅までそのひとつにされるなんて、許せない。  ロリサの力を受けたワイヤーと戦ったとき、炎を吐けた。人化だけでなく、地獄の猟犬の成犬らしい力がようやく発現したのだ。  さらに力を高めれば、ひとりで三人を倒せる日がいつかくる。 (いつかじゃ、だめなんだよ)  兄に焼かれた、熱さと痛みがよみがえる。体は生まれ直して新しくなっても、記憶は全て残っていた。  紅のことを忘れずにいられたのは嬉しいけれど、辛くみじめな記憶まで残っていて悔しい。  けれど、クロは頭を大きく横に振ると、紅の手を取った。 「こっち来て。俺、もっと強くなったから」  クロは紅の手を引いて、河川敷へ駆けおりる。明るい時間帯は散歩コースとして歩く人も多いけれど、今は誰もいなかった。 「見ててね、火吐けるようになったから」 「え、火? 吐く?」  首を傾げて瞬きする紅をよそに、クロは川へ向かって喉の奥から深く息を吐く。ワイヤーを燃やしたときを思い出して、喉の奥へ集中する。  熱い塊の生まれてくる感覚がして、ひと息に外へ吐きだすと、水面の上を小さな火の玉がすべって消えた。 「やったー! 見た見た? これも、大人になったからできたんだよ」 「す、すごい……」  紅は口元に手をあてて何度もうなずいている。力を見せることができて嬉しい。これならきっと、紅も安心してくれるはずだ。 「もっかいやるね」  すると紅は、目をきらきらさせながらクロの方を見てくれた。期待に応えて安心させようと、もう一度火を吐く流れをする。 (あれ?)  今度はただ息を吐いただけだった。同じことをしたはずなのに、火の玉は出なかった。 「ちゃんとできるんだよ。だからあのワイヤーもやっつけたんだよ」  繰り返してもやはり、火の玉は吐けなかった。 「できるときとできないときがあるのかもな? 一回できたんなら、またできるよ」  紅が肩をポンポンと軽く叩いてくれる。優しくされれるのは嬉しいけれど、力を示せないことが悔しい。  慰められるのではなくて、強くなったクロを頼り、安心して欲しかった。 「いつでもできるように、いっぱい練習するね」 「うん、じゃあ俺も練習付き合っていい?見てるくらいしかできないかもけど」  火を吐く能力を信じてくれて、きっとできると可能性に期待してくれた。  今すぐ火を吐けないことは悔しいけれど。  応援されて嬉しくなり舞い上がると、勢い余って紅へキスしてしまった。 「っん、クロ!」 「あっ、わっ、ごめん! 紅がすごく好きって思ったからしたくって! ……ダメだったの?」  紅はそっぽを向いて文句を言いたげな顔をしている。 「……いいけど」  口を尖らせて入るけれど、ごく小さな声で許可をくれた。  なのでもう一度、クロはキスを落とす。ぺろりと紅の唇を舐めたあと、ふにゅと合わせる。  何度も合わせていると、紅の唇が薄く開いた。隙間から舌を差し込んでみる。 「んっ、んぅ……」  紅は苦しそうな声をあげて、クロの衣服を懸命につかんでくる。なのに、逃げない。 (かわいい、もっとしたい)  高揚したクロは紅の上顎を舌でなぞり、舌を吸う。夢中になって吸っていると、紅に胸を強く叩かれた。  名残惜しいけれど気になって、クロは紅を離した。 「ぷは、はぁっ、はぁっ……」  紅は肩で息をしながら苦しんでいる。 「こういうキス、疲れちゃう?」 「息、できなかったから……」  呼吸を整えている紅の頬は赤く染まっていて、瞳は潤み色っぽい。もう一度キスしたい気持ちを抑えて、紅に聞く。 「息止めてたの? 鼻でしたらいいのに」  自然と自分がしていたことを紅にいうと、さらに真っ赤になって今度は眉間にシワを寄せた。 「こ、こんなの初めてなのに、うまくできるわけないだろっ!」  人目を引く見た目の紅が、クロもこれほどに惹かれてやまない紅が、深いキスの経験がない。  信じられない。 「ほんと……?」 「うるさいな、仕方ないだろ! そんな相手いなかったんだから」  照れて怒る紅の姿が愛しい。自分だけのものになった気がして、クロはますます鼓動が速くなる。 「……キス、誰ともしてないの?」  視線を川の方へ向け、小さくうなずく紅を見、クロは腹の底から力のみなぎる感覚を覚えた。  早く帰ってふたりきりになりたい。もっとじっくりキスがしたい。  湧き上がる想いを抑えつつ、紅へ早くスーパーへ行こうと促した。  しかし、紅は途中で貼紙を外してくると言って立ち止まる。 「そうだ、貼紙したやつ、剥がしてくる」  すぐそこだからと、紅はひとりで橋の下へ向かって行った。距離は近いし、クロがすぐに駆け付けられる場所なので心配ないと、待つことにした。

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