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 クロの落とし主を探すポスターの場所でロリサとつながり、紅は意識を失った。  そして目を覚ましたのは、装飾が豪華で美しい鏡台が印象的な部屋だった。 (きれいな鏡……だけどすごく大きい……ファンタジーとかで見た女王様の部屋、みたいな感じ?)  紅が連れて来られたのは、クロが言っていた地下牢ではなかった。  特に拘束もされず、部屋の中を自由に動き回ることができる。期待を込めてひとつだけあった扉を引こうとしたけれど、開かなかった。 (魔女はどこに?)  警戒しながら辺りを見回していると、突然声がした。 「サードももうすぐね。ちょうどよかったわ」  音もなく、真っ黒なドレスをまとった、やけにセクシーな女性が現れた。美しさは強さの源、というだけあって、ロリサは圧倒される美貌を備えていた。  サードとはクロのもとの名前だった気がする。 「……俺なんて使わなくても、そんなに美しいじゃないですか」  思わず口をついて出た言葉に、地獄の魔女は気をよくしたのか、口角を少しあげてこちらを見た。 「どれだけ美しくなってもいいでしょ」  瞬時に距離を詰められて、あごを指先でとられられる。間近に見る恐ろしさに体が勝手に震えた。 「さ、私の役に立ってちょうだいね」  背後でどさ、と何かが落ちる音がした。気になるけれど、あごをとらえられたままで振り返ることができない。 「紅を連れて行くな!」 「クロ!」  声を聞いて、不意にほっとしてしまった。 「紅は自分の意志で来たのよ」  言いながら、長い爪の先で紅の唇をなぞっていく。 「良い赤だわ。早くルージュにしなくちゃ」  あごから手が離れたので、クロの方を振り向く。  銀色の耳も尻尾も逆立ち、黒い髪まで揺らめいている。クロがこんなふうに怒るところは初めて見た。 「紅の誕生日なんだ、行くわけがないだろ!」 「誕生日だからいいのよ、二十歳のね。一番良い色を出せるわ」  信じて怒ってくれるクロに、胸が痛む。伝えて出かけようとすれば、クロが止めるのは分かっていたので、置き去りにしてしまった。  それでも見つけてくれたことを嬉しく思ってしまう。 「サードのことは、お前たちで片付けなさい」  呼びかけに応じて、部屋へふたりの男が現れる。  クロと同じで耳と尻尾の生えた人だ。けれど、クロと違って耳と尻尾は黒毛をしている。 「ファーストもセカンドも、邪魔しないでよ」  きっとクロのふたりの兄だろう。  どんな気持ちで弟を炎で焼いたのだろう。使える魔女の命令だからと仕方なくか、自らすすんでなのか。 (命令だったなら、この人たちも犠牲者ってことかも)  兄弟で争うやりきれなさを想像する。クロだけでなく彼らも救われる道はないかと、おせっかいにも考えてしまう。  けれど、紅の寄り添う心を無視するように、クロヘ向けて遠慮のない炎が吐かれた。  火の玉程度を吐いていたクロとは違う、太い火柱があがる。部屋が火事になると慌てたけれど、焦げ付くことすらなかった。 「今度こそちゃんと焼いてやるからな。ここなら逃げ込める水場もないだろ」 「クロ!」  思わず火を吐きかけた方へ背後から飛びついてしまった。それでも止めることはできず、クロはどうにか避けてくれた。 「邪魔すんなお前、死にてーのか!」  とっさに腕を離したけれど、足が震えて逃げられない。目の前で大きく口が開かれたところでロリサに止められた。 「大事な材料を傷つけたらわかってるわよね」  たしなめられた男に強く振り払われ、紅は後ろへ尻もちをつく。怒りの表情でクロの方へ向き直ってしまった。今度こそ、クロが危ない。 「クロ、何で来たんだよっ!」 「いいじゃない、お前もどうせ死ぬんだから」  ロリサが言い、腕をつかまれ、襟元から胸まではだけられた。  紅と比べても細く華奢な手にも関わらず、抵抗してもびくともしない。  首筋に狙いを定めた地獄の魔女は、長く尖った爪の先を突き立ててくる。  ちくりと小さな痛みが走り、傷口から血がにじむ。そこから細い管のようなものが生え、美しいガラス細工の小瓶へ伸びると紅の赤い血液が吸い取られていく。 「やめろぉぉ!!」  クロの叫び声が聞こえる。必死な声からして、自分も死ぬのだとわかってしまう。

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