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7-3
昨夜、ポスターを介して地獄の魔女と約束したときは、少し血をもらうだけと言っていた。交換条件で、クロには手を出さないことを約束したはずだった。
(どっちも守ってくれないのか、くそっ)
紅は自分が死ぬかもしれないことは、薄々感じていた。
「……クロは、助けろよ」
「助かるわよ、ふたりに勝てばね」
脇で戦うクロたちにはまったく興味を示さず、管を流れる血液をうっとりと眺める。
(まずい……)
急な失血のせいか、紅は視界がぼんやりしてくる。
ロリサにも抗議したいし、クロも助けたい。勝手な行動をした自分を助けにきてくれたクロには、生きていて欲しかった。
「俺が生きてたら、ずっと血を作れる……いつでもわけてやるから、クロには手を出すな」
「あら、ダメよ。二十歳は今だけじゃない」
言われる途中で、視界がさらに霞んでくる。クロを助けたいけれど、何もできず悔しい。
ガラスの小瓶が血で満たされると管が抜かれ、紅は床へ倒れ込んだ。
「紅!」
「逃げろって……」
駆け寄ろうとしてくれたけれど、男ふたりに阻まれ、赤い炎を全身に浴びてしまった。
クロにまた、焼かれる辛い思いをさせてしまった。
もういいから、逃げて欲しい。クロが助かるならとここへひとりできたのだから、覚悟はできている。
(でも、本当は……いやだなぁ。死にたくない)
反面矛盾する感情も湧いてくる。
愛し愛される幸せを知ってしまい、いくらクロのためだとわかっていても死にたくなくなってしまった。最後にあんな思い出をもらわなければよかった。
「……紅」
赤い炎に焼かれているはずのクロが、あっという間に消し去ってしまった。水場があるわけでも、強い風が吹いたわけでもない。
「許さない」
クロの口元から小さな炎が噴き出していた。よく見ると赤色ではない。
(青い炎?)
ガスバーナーの激しく燃える炎を思い出した。青色は高温で赤よりも激しく燃える。
「変な色の火だなぁ。お前、やっぱできそこないだろぉ」
「待て、違う。セカンド!」
慌てた細身の男の制止を聞かず、大柄な方の男が黒へ向かって行こうとすると、青い火柱が迎え撃つ。
「ギャゥッ!」
避けたものの青い炎を掠めた部分はひどいやけどを負っている。
クロの使える炎は、赤い火の玉程度だったはずだ。それが、火力も温度も格段にあがっている。
(今頃になって、約束果たしてもらえた?)
ベニクラゲの王に力を求めたことは紅も聞いていた、けれど叶えられなかったはずだった。
「使えないわね。また飼い替えかしら」
鏡台の前でイスに座り、紅の血液が入ったガラスの小瓶を揺らして、のんびりとぼやいている。
口ぶりからして、ロリサが直接手を下せば、クロだけでなくふたりの男もすぐに殺せるのだろう。
自分に仕えて尽くしてきたはずの存在に、ひどいことができるものだ。
(こんなやつにクロは……)
クロと一緒にいるようになるまでは、尽くす優しさに下心があった。恋人に自分を愛して欲しい、自分だけを特別に思って欲しくてたまらなかった。
けれどクロとは一緒にいる時間が増えるにつれて、気持ちは変わっていった。
クロさえ生きて、幸せでいてくれたらいいと、ロリサの約束にのったときは思っていた。
だが、今は違う。
(なんか、腹立ってきた)
約束を守るつもりもないロリサへ、何かしてやりたい。そしてできるなら、ここからクロと帰って一緒に生きていきたい。
また食事をしたり出かけたり、紅に笑って懐いて欲しい。
(……また今度って約束したもんな)
昨夜の深いつながりを思い出してしまい、紅は意識が次第に覚めてくる。
ガラスの小瓶をいじっていたロリサが、座ったままで長い爪の先をふたりの男とクロヘ向けた。
「探したぞ、吽形(うんぎょう)! ようやく見つけた!」
部屋の壁を蹴破って、真っ赤な長髪で大柄の男が長い太刀を手に乗り込んできた。
「吽形! 久しぶり、すごい力手に入れたんだね!」
背中には金色でクロにそっくりなくるんとした毛質の小柄な男がのっている。明るく笑って言いながら飛び降りる。そしてクロの隣へ並び立って、親し気に肩を叩いている。
得体のしれない人物の乱入に、紅はあっけにとられるけれど、頭を振って思考を呼び起こす。
(クロの知り合い…なのか?)
「なんで来たのよ!」
「神の子を攫いおって、返してもらうぞ」
「勝手に落ちてきたくせに! どうしようと勝手じゃない!」
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