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 大柄な男はロリサへ太刀の先を向けながら、無遠慮に距離を詰めていく。魔女の慌てぶりが意外だった。 (神の子って……クロが神様の子供!?) 「カグツチはね、めちゃくちゃ怒ってるよ」  金髪の小柄な男がクロの肩へ腕をのせ、大柄の男を指さして言う。カグツチとは、現れた大男の名前らしい。  地獄の猟犬だと本人から聞いていたので、意外な事実に混乱しかける。けれど、ロリサが必死にカグツチと言いあう今がチャンスだ。  クロへ加勢できないかと、じりじりと静かに移動していく。 「誰だぁ、お前、邪魔すんなよぉ」  やけどに顔をしかめながら、クロと対峙する背の高い方が赤い火の玉を数発飛ばすけれど、金髪の男がふっと息を吹きかけて消す。 「吽形、ねぇ俺のこと忘れちゃった? 阿形(あぎょう)だよ?依り代が壊れちゃったし、記憶もなくなってるのかなぁ?」 「……どうでもいい。紅を返せ。邪魔するやつはみんな…殺してやる」  クロの口ぶりが変わり、紅は寒気がした。  ゆらゆらと揺れて立ち上る黒髪は次第に銀色へ変化し、耳や尻尾と同じになっていく。 (クロ? ほんとにクロか?)  対峙する男ふたりが息を合わせて赤い炎を吹き出す。けれど、あっという間にクロの青い炎に押し負けてしまった。 「ギャッ!」  大柄な方は全身を焼かれたせいで、身動きが取れなくなっている。男を盾にして避けた小柄な方は、後ろへ倒れ込んだけれどまだ動こうとしていた。 「紅を返せ」  一足飛びで腹の上に馬乗りになり、首元へ喰らいついた。 「グアァァァァ」  悲痛に叫ぶ声が響き、クロが致命傷を与えていることを知る。 (焼かれた仕返しか…けど、クロって…こんなだった…?)  変貌に紅がとまどっていると、今度はふたりが青い炎に包まれる。 「ギィィィァァァ……」  さっき以上の声が響き、紅は思わず耳を塞ぐ。男が苦しんでいるにも関わらず、紅は全く熱さを感じないのが不思議だった。  全身を青い炎で覆われ、焼かれてた男からはもう叫び声が聞こえない。 「ゥゥゥゥゥ」  それでもまだクロの火力は増していて、隣に転がった男を巻き込み、さらに部屋全体へと広げていく。 「んー、いいね! 吽形の炎は素敵な進化を遂げたね。この子のおかげなんだよねー」  突然自分を指され、紅は驚いてしまう。  乱入した、阿形と名乗る金髪の男は楽し気にそんなことを言った。 「あっつ、やめなさいサード! 育ててあげたの忘れたの、許さないわよ!」  ロリサの方へも炎が及び始め、金切り声で文句を言っている。しかしクロは全く耳を貸さなかった。 「吽形は神の子だからな、神の力には適わぬよ。諦めろ」 「まだよ、これで……」  鏡台に置いた紅の血の入ったガラス瓶を手に取る。ふたを開けたところを、カグツチに手を払われる。 「きゃぁぁっ」  紅の血液が黒いドレスと白い肌へ散り、じゅっと音を立て白い湯気をあげている。 「熱い、熱い、何よこれぇぇ!」  なぜか、紅の血を浴び苦しんでいる。化粧品にするなら、肌に付けても問題のない素材のはずだ。  けれど、クロが青い炎で兄たちを焼いたのと近い現象が起きた。 「クロ!」  青い炎はさらに広がり、部屋の床まで延び始めた。 (クロ……燃えてる!?)  自分で作りだした炎なのに、自分まで焼き始めている。兄ほどではないけれど、部分的に髪は焼け体にもところどころやけどが見える。 「クロ! おい、クロ!!」  青い炎の中へ飛び込むと、やはり熱くはなかった。むしろ、紅を思うクロの気持ちが伝わってきて、優しくあたたかい。 「もういい、もういいって! やめろ」  背中へ覆いかぶさって叫ぶけれど、クロは聞いてくれない。 「クロまで死んじゃうだろ! いやだよ!」  両肩を掴んで揺さぶろうとしても、全く動かない。こんな形でクロを失うなんて、たまらない。 「……また今度って、言ったじゃん!」  昨夜初めて深く契ったあとの、ささいな約束を持ち出してみる。クロはもう一度を求めていたので、反応してくれることを祈った。

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