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7-5
「グゥ……」
首元へ喰らいついた力が緩んだので、精一杯力を込めてクロを引き起こす。青い炎が断続的に漏れる口へ、キスを落とした。
「!」
すると一瞬で青い炎が鎮火され、部屋中を覆っていた火まで消える。
クロを焼いていた青い炎も無事消えていった。痛々しいやけどのような跡が残っている。
「ゥゥゥ……」
「グゥ……」
クロが焼いた兄たちもかろうじて生きているのだろう。やけどはひどいけれど、うめき声がする。
「こんなもの、いらないわ! とんでもない生き物ね、お前もサードも!」
紅の血のとんだ箇所は、ドレスが焼けこげ、肌に傷を負っている。そして次の瞬間、姿を消してしまった。
(俺の血は毒のような効果があるのか?)
不思議に思いながら、クロを抱きしめていると、カグツチがこちらへやってくる。
「待たせたな、吽形。これでまた共に暮らせる。もうすぐ依り代も直るだろう。神の家に帰るぞ」
帰る、というからにはクロの本当の家族は彼らなのだろう。ロリサはクロを攫いでもしたのだろうか。
味方として戦ってくれたはずのカグツチだ。しかし、紅はクロとの仲を引き裂く障害のような存在に思えてくる。
「クロ……」
期待を込めてもう一度キスをすると、顔のやけどが薄くなっていく。
「……紅」
クロも気が付き、いつもの穏やかな顔に戻った。けれど、しょげて小さくなっている。
「ごめんね、俺ちゃんと守れなくて。知らない間にロリサに紅が…」
「そんなのいいって、来てくれただろ。すっごく嬉しかった!」
そう言ってクロの首元へ腕を巻き付け、抱きしめる。さらにキスを繰り返し、少しでもクロの傷を回復させようとした。
「あとは俺たちで治すから、もういいかな?」
阿形が言って、クロの手を取り引く。クロは戸惑いながらも、現れたカグツチと阿形を目を細めて見ている。
戦いの間は忘れていたけれど、記憶が戻ったのかもしれない。
ロリサが家族なら、ひどい仕打ちを受ける家に帰ることはないと思っていた。けれど、神様と家族なら返してやった方がクロも幸せで安全に暮らせるだろう。
「紅、ごめんね、俺……」
うつむいてクロが謝り出す。
「い、いやです。クロを連れて行かないで…ください!」
このままではクロがいなくなる。
そう思うと、クロの安全と幸せだけを祈っていられなくなってしまった。
「吽形は神である我の眷属だ。人と暮らすのはおかしい。元の場所へ戻るべきだ」
「わかってます、でも……クロじゃないとダメなんです」
神様に意見するなんて、殺されても文句は言えないだろう。恐れて体は震えるけれど、言わずにはいられなかった。
すると阿形が、ふわりと近づいてきて、紅の首元の匂いを嗅いでいる。突然の行動に、びくりと驚いて体が距離を取ろうとする。
「待ってまって…?この子、カグツチの匂いがするよ」
「何?」
カグツチが驚いた表情で紅を眺める。頭からつま先までじっくり見られる間、紅は何をされるのか気が気でならなかった。
「ふむ、我が家とつながりがあるな」
カグツチと阿形は、何度もうなずいたあと続けた。
「そうか。吽形の像を壊したのはお前だな」
かがんで紅に目を合わせたカグツチがにやりと笑って言う。
「吽形の像? そんなこと……」
「こまいぬって言った方がわかるかな?」
そう言って、阿形は目の前で金色のくるんとした毛が特徴の、動物らしきものに変化した。しばらくすると、石像に変わり、神社でよく見る口を開けた狛犬姿になった。
「壊してないです」
「紅じゃない、違うよ。俺知ってるから!」
急にクロが割って入り、カグツチと阿形に反論する。
「守りたいのはわかるよ、でもやったの紅くんだよ」
「だから違うの!」
目の前で紅をかばうクロの背中を見ているうちに、ひとつの記憶がよみがえる。
『もうおばあちゃんち、行っちゃだめだからね』
幼い頃、母にきつく叱られた。あれは祖母が大切にしていたものを壊したからだ。それ以来、二度と祖母の神社へは出向けていない。
「ひびが入りかけてたのが気になって…登って突いたら、割れて…」
「そうだ。おかげで生まれたばかりの吽形が地獄へ堕ちて、今まで見つからなかった」
「!」
ロリサが、クロは落ちてきたと言っていたのを思い出す。
(俺が余計なことをしなかったら、クロは家族と一緒にいられて、死にかけることもなく幸せに暮らせてた?)
紅は自分の存在が、クロの幸せを邪魔したと知り、目の前が真っ暗になる。
「俺が強くなったのは、紅のおかげだよ! 全部紅が助けてくれたんだ!」
落ち込んでいると、クロが抱き着いてくる。懸命に励まそうとしているのが伝わってくる。
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