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第2話 生家

 リキはこの海辺の町で育った。 リキの歌には海が多く登場する。今住んでいる家もリキの生まれ育った家だ。  両親は、十数年前に亡くなった。車の事故だった。あっという間に二人ともこの世からいなくなった。  その時の喪失感を未だに抱えている。 この家で子供時代を過ごし、事故は大学で家を離れた時のことだった。兄弟のいないリキは一人ぼっちになった。  昔からギターを手放さなかったから、卒業後はギター弾きの道を選んだ。  就職したが会社員は性に合わなかった。 親の遺産も少しはあったが、卒業後に思いがけず、自分の曲がヒットして金になった。  大学の近くに住む必要がなくなって、またこの家に帰って来た。親のいない寂しい家。  この家にはリキの思い出が染み付いている。 温かい母の手料理。母の愛したジャズのレコード。何も不安のなかった子供時代。  葛藤したこともたくさんあったはずなのに、 今は良いことしか思い出せない。  過ぎた日々に切ない思い。  惚れた女がいた。この家で一緒に暮らしたかった。この家で初めて抱いた女。初めて愛したのは水商売の女だった。  一花(いちか)がよく知っている。一花の同僚。  一花は腐れ縁の飲み友達。今じゃ近所のキャバクラのナンバーワンらしい。いつものバーで毎晩のように顔を見る。  まだ青臭い学生だったリキ。家からも通える大学だが、わがまま言って一人暮らしをした。  大学生で毎週のように実家に帰って来た。 「おふくろの飯が食いたいから、さ。」  そして突然の両親の死。その後、酒に溺れて、出会った女だった。  リキは女に執着した。夕子。 「俺を一人ぼっちにしないでくれ。」  まだ、恋の駆け引きも知らないガキだったリキは夕子を自分一人のものにしたかった。  夜になると夕子の店に行く。一晩中粘って夕子を目で追う。指名して、延長して、浴びるほど酒を飲む。  学生のリキは親の遺産を使い、夕子にまとわりつく。  夕子は優しい女だった。 「リキ、あまり飲み過ぎないで。」  店が終わるのを裏口でふらつきながら待つ。 まるでストーカーだった。 「俺には夕子しかいないんだ。」  初めて知る女の身体。その温もりに溺れた。 部屋に帰って来て夕子と二人の時間。  膝に頭を乗せて甘える。親にもした事のない密着。夕子は応えてくれた。  何もしない日々。学生の本文、勉強も手につかない。ただ、親のいない喪失感を埋めるために、 がむしゃらに夕子を抱く。 「痛いわ、リキ、優しくして。」 「誰と比べてるんだよ!どこの男と。」  リキは自己嫌悪に苛まれる。 「こんなの、本当の俺じゃないんだ。」  泣くリキの頭を抱えて優しく歌う夕子の声。 「これがブルースよ。」

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