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第29話
蘭には気付かれていたものの、他の男娼たちに知られぬよう、細心の注意を払ってきたつもりだ。
しかし東堂はこういった点には目ざといもので、ずっと知らぬふりを通していた。
その理由は、二人が男娼として商品価値が高く、店に置いておきたいと思ったから。
それに、商品価値が高いが故に、罰を与えるなどして顔や体に傷をつけないようにしていたことも理由だ。
「まぁ、今まで放任してきたのだからお前らの関係には何も言わん」
東堂のその言葉に、飛鳥や和音は心底安堵した。
ところが東堂は話をこう続ける。
「ただし、五日後までに五百両用意しろ」
「ご、五百両ですか?それは幾ら何でも……」
「その程度用意できなければ、ここを出ていくことは許さん」
その後、しばらく顔を見せなかった政忠が店にやってきたので、飛鳥は五百両を用意しろと言われたことを話した。
彼は、飛鳥がここを出るための金を工面してくれると言ったからだ。
自分から金額を伝えるのは気が引けたが、仕方ない。
政忠は金を出してくれるとは言っていたが、その額が幾らほどなのか具体的には知らなかったのである。
「五百両か……。君がここを出たいと言っていた時期までに、用意できるか分からないな」
彼は悩むような素振りをした。
「そうですよね……難しいだろうというのは分かっていました。政忠さんのお気持ちだけで結構ですから……」
飛鳥がそう言うと、政忠は僅かに考えた後に決意したように言った。
「そう言わないでくれ。君のためなら、きっと工面してみせる」
「でも、どうか無理はしないで……」
「大丈夫。あと半年弱なんだろう?それまで時間はあるし、待っていて」
政忠は手を伸ばして飛鳥の頬に触れようとしたが、直前でその手を止めて引っ込める。
普段は客として飛鳥に触れているのに、この時ばかりは顔に触れることすら躊躇しているようだ。
「はい……お待ちしてます」
飛鳥の言葉に勇気を得たのか、政忠は飛鳥を布団に押し倒して組み敷いた。
そして顔を近付けてきたと思ったら、飛鳥の唇を貪るように味わったのである。
いつも優しく扱ってくれる政忠にしては、少々乱暴なような気がしてならない。
けれど、今夜は彼のしたいようにしてもらおうと思った飛鳥だった。
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