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第33話

この場に来てから二年ほどになるが、希望は和音の存在だけだった。 もちろん、自分の元に足を運んでくれる客たちには感謝をしている。 けれど、やはり愛する存在は飛鳥にとって彼一人のみ。 ここ以外の場所で、彼と共に新たな人生を歩みたいと思っているのだ。 翌朝、飛鳥は誰にもはばかることなく、和音と香煌楼の部屋で話をした。 「政忠さんが、こっそりお金を置いていってくれたらしいんだ」 「あぁ、そうらしいな。東堂さんから先程聞いたよ。俺はさ、これから故郷に戻って商いをしようと思う」 将来について薄っすらとは話したことがあったが、具体的に話し合うのはこれが初めてかもしれない。 一緒に香煌楼を出るつもりがあるなら、あらかじめ計画を立てておくべきだろう。 でも、明確に二人でこの場から出られるという確証もないから、詳しい話はできなかったのだ。 これから二人で、決めていっても良いのではないかとも思える。 「商い?何の?」 「そうだな……古道具屋でもやるかな。実家でもやっていたから、少しは分かる」 「そっか……」 古道具屋とは意表を突かれたが、自分にも手伝えるだろうかと飛鳥は考えた。 「お前はどうする?ついてきてくれるか?」 「もちろんだよ。あなたの傍にいるために、店を出たんだから」 「お前の親御さんたちにはどうするんだ?」 和音にそう聞かれて、飛鳥は両親の顔を思い浮かべた。 香煌楼に来てから、一度も会っていない両親。 息災でいるか、自分のことを覚えていてくれているか、気がかりはあった。 「きっと、僕のことは気にしていないだろうし……後で落ち着いたら文を書くよ」 「それでいいのか?」 和音の問いに、飛鳥は頷いた。 部屋で話していると、襖ががらりと開き蘭が入ってくる。 「飛鳥さんたち、もう出ていくんだって!?」 「蘭、情報が早いな」 飛鳥が苦笑すると、蘭は寂しそうな顔をした。 「噂になってるんだ。二人が出ていくそうだって」 「これからは、二人で何とかやっていくつもりだよ」 「残念だよ。せっかく兄貴みたいな人ができたと思ってたのに……」 泣きそうになる蘭の肩を、飛鳥は優しく二回叩いた。 「お前は、ちゃんと仲間たちと仲良くやるんだぞ?」 飛鳥がそう告げると、蘭は涙ぐみながら頷いた。 「分かってるよ」 蘭がそう言った直後に、今度は宗二も部屋にやってきた。 飛鳥とは犬猿の仲と言える関係性だった先輩だ。 「まさかお前らの方が先に出ていくことになるなんてな」 「宗二さんも、あと少し頑張ってくださいよ」 飛鳥の言葉に、宗二は皮肉を貼り付けた表情を見せる。 「あぁ。俺もすぐにここを出てやるさ。ま、せいぜい達者で暮らせよ!」 宗二の言葉に、和音が口を開いた。 「あんたに言われなくても生きてやるさ。お前らも、野垂れ死にするなよ」 そう告げると、宗二はまた部屋を出ていったのだった。 「元気でね」 蘭がそう言って飛鳥に抱き付くのを、和音が止めに入る。 「おい。俺のものに気安く触るな」 止められた蘭は、不服とばかりに口を尖らせた。 「何だよ。最後くらいいいだろう?」 蘭がそう言う姿が、飛鳥には可愛く感じられた。 そして蘭の頭を軽く撫でると、蘭は嬉しそうな顔をする。 それを見た和音は、より不快そうな顔をした。 「何をしてるんだよ!飛鳥」 明らかに妬いているのが分かるので、飛鳥は笑ってしまう。 「怒らないでよ。僕が誰を愛してるか、分かってるでしょ?」 飛鳥の言葉を聞いた和音は、顔を朱に染めた。 「え、僕はまだ飛鳥さんのこと諦めてないよ?」 「何だと!?」 蘭の言葉に慌てる和音。 「でも、僕は飛鳥さんが幸せなら、それで構わないから」 「ありがとう」 「元気でな。お前も幸せになれ」 飛鳥が蘭にそう声をかけると、彼は涙ぐみながらも頷いた。

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