34 / 44
第34話
それから飛鳥と和音は、僅かな荷物を持ち香煌楼を去ったのである。
二人は十日ほど後に、和音の生まれ育った地域にやってきた。
飛鳥も和音も、実家には香煌楼を出ることを文(ふみ)で知らせている。
飛鳥の親は、思いのほか出るのが早いため、きっと驚いたことだろう。
実家にも戻らずに和音の故郷に来たことには、家族は失望するかもしれない。
なお和音の育った村にやってきたものの、二人は実家に戻ったわけではない。
彼は、家族とは別に自身の力でやっていきたいと思っているのだ。
まずは住む家を用意して、生活ができるように整えた。
金がなくては住まいの用意などできないが、実は香煌楼を出てくる前に、東堂が百両もの金を用立ててくれたのである。
きっと、政忠が払ってくれた額の中から出してくれたのだろうと思われる。
しかも、これまで香煌楼に貢献してくれたからとの理由で、返済はいらないという。
そこまでしてもらうわけにはいかないと思った飛鳥たちは、一度断った。
しかし東堂は、二人が幸せになるならそれで構わない、と言ってくれたのだ。
まさか彼がそう言ってくれるとは思わなかった二人だが、恐縮しつつ受け取ることにした。
その金を元手に二人で暮らす家を買い、生活の拠点を整える。
飛鳥たちが拠点としたのは、村の商店が立ち並ぶ地区の近く。
川が近くに流れていて、静かな場所だ。
また、和音は古道具屋をやると言っていたので、二人で商いができる場所を探した。
二人が見つけたのは、かつて反物屋を営んでいたという物件。
規模や費用は、飛鳥たちの希望に沿ったもので、住まいからも近いためここで商いをすることにした。
商材については、良い仕入先を見つけることができ、確保できた。
これで、二人の商いをする準備が完了したのである。
新たな暮らしも順調に始まり、飛鳥の心は浮足立っていた。
これまでとは異なる暮らしに緊張や戸惑いはあるが、遊郭とは違った空間で和音と過ごせるから。
古道具屋での二人の役割は、飛鳥は裏方の仕事をして、和音が接客をすることに決めた。
それは、飛鳥が言った一言が理由だ。
「僕は、和音さんを支えられたらそれで良い。この店は和音さんが主に経営するものだしね」
「可愛い恋人が支えてくれて、俺は嬉しいよ」
「僕も、和音さんを支えることができて嬉しい。これからは、隠れることなく一緒にいられるしね」
算盤(そろばん)をはじきながら、飛鳥は商材の棚を磨く和音に微笑みかけた。
ともだちにシェアしよう!

