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第36話
和音と共に商売を始めてから一月後に、彼の実家から文が届いた。
その文を先に手にしたのは飛鳥だったが、そのまま和音に渡す。
届いた文を読んだ後、和音の様子に異変が起きた。
文を手にした彼は震えて、顔を青ざめさせていたのである。
「どうしたの?」
「実家から文が届いたんだ。俺に、婚姻しろと……」
「え!?」
突然のことに、飛鳥は戸惑いを隠せない。
「実家に戻って商いを継いで、嫁を娶(めと)れと……」
和音が言うには、親がどこかの娘を見つけてきて、彼と婚姻させようとしているらしい。
飛鳥という男の伴侶がいるのを知らないなら、他の女性と婚姻をさせようとするのも分かる。
しかしこうした話が持ち上がるまで、そういったことは考えもしなかった。
息子がある程度の年齢に達したなら、異性との縁談を勧める親が普通なのだ。
その事実を突きつけられ、飛鳥は放心状態になった。
このまま和音と生きていければそれで良いと思っていたが、そうもいかないのだろうか。
「ど、どうするの?」
「答えは決まってるだろ?お前がいるのに、どこかの知らない女と結婚なんてできるわけがない」
「で、でも……親御さんたちは許してくれないのでは……」
女性を嫁がせようとするくらいだから、自分の存在を知ったら、きっと和音の親は反対するだろう。
そう思うと、大きな壁が立ちはだかったと飛鳥は感じた。
「そうかもな……でも俺は、実家に文を書くつもりだ」
「大丈夫かな……」
「分からないが、俺の親だし、話せば理解してくれるさ」
そうだと良いと思うが、飛鳥の心には重苦しいものが残った。
商いに少しずつ慣れてきた頃、ある一人の男性が店に訪ねてきた。
その日はちょうど和音は外の用事があり、出払っている。
普段は客対応はしない飛鳥だが、和音がいないのでやってきた男に声をかけた。
「いらっしゃいませ」
飛鳥の声を聞いた男は、探るような目でこちらを見る。
「私は客ではない」
そう言われ一瞬戸惑った飛鳥だったが、すぐに笑顔を作った。
「どういったご要件でしょうか」
「私は時定の、高田時定の父親だ」
男の言葉を聞き、飛鳥は硬直してしまう。
なぜ和音の父親がここまでやってきたのか……。
考えたくなくても、飛鳥はその理由を察した。
きっと、和音のことを説得しに来たのだろう。
「は、初めまして。士郎と申します。時定さんと、商いをさせてもらっています」
飛鳥が挨拶をすると、父親はますます不躾な視線を寄越してきた。
「時定とは、どういった関係で?」
あまりに率直な問いに、飛鳥は思わずごくりと生唾を飲んだ。
こういった場合は何と返せば良いのか迷う。
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