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第3話
切られてしまった携帯電話を眺め、数秒固まる。
なんで嶋根は怒っているのだろう…
知らないうちに地雷を踏み抜いてしまったのだろうか。
「ママ、ごめん。
今日はもう帰る」
俺がそう言うと、少し遠くのボックス席で手招きしていたママが「え~、もう?」と残念そうな声を上げる。
「電話が来ちゃって」
「そうちゃん、まだあのノンケ10股男と付き合ってるの?」
「嶋根くんはバイだし、10股だったのはピークの大学1年生の時だよ」
と訂正するも「バイなんてノンケと一緒。それに普通に生きてて10股になんてならないから」と言われて苦笑いを浮かべる。
確かに全部その通りではある。
急いで帰宅したけれど、案の定、嶋根は家にいなかった。
あった瞬間に言うための謝罪文を必死に頭の中で練っていたので拍子抜けする。
でもまあ、いないだろうなとは思っていた。
明日こそ、嶋根が帰ってきたら謝ろうと思っていた。
翌日、ぼんやりしたまま仕事をして、終えて帰って昨日買った材料を使って彼の好物を作って待っていた。
けれど、彼は0時を過ぎても帰らない。
『どこにいるの?いつ帰る?』
そう送りかけて文字を消した。
彼は束縛や詮索を嫌う。
ふと違和感に気づき、彼のクローゼットを見る。
スーツや下着がなくなっていた。
早く気づけばよかった。
彼は数日帰る気はないらしい。
まだ荷物は残っているから、帰らないということはないだろう。
早く気づいていれば、夕食も無駄にならなかったし、もっと早く眠る支度をすることができたのに。
気づいてからは、機械のように夕食を片付け、洗濯をして風呂に入った。
深夜1時半。
眠気は来ない。
もし、俺が仕事している間に嶋根が少しずつ荷物を運び出して、気づいたら同居解消とかされてたら…?
もう二度と嶋根に会えないとしたら…?
そんな不安がぽんぽん湧いてきて、とても眠れそうになかった。
そんな寝不足瀕死生活を1週間ほど続けた頃、帰ってすぐに嶋根の部屋を調べ、彼の物が1つも減っていないのを確認することが唯一の心の安寧になっていた。
バーのママに話を聞いてほしいが、いつ嶋根が帰るかも分からないので極力家にいたかった。
仕事が終わり、暗い部屋の中でソファに座ってボーっとする。
23時まで待って、彼が帰らないことを確認してから風呂に入って眠る。
嶋根が帰らなくなってからはずーっとそのルーティンだ。
お腹は空くけど、食欲はないので夕食も特に取らない。
ガチャっと玄関の鍵が開く音がした。
「あれ?颯也ー?いるー?」と言う声と聞きなれた足音。
俺はついに幻覚、幻聴の症状まで出始めたのだろうか。
リビングの扉が開く音がしてパチリと電気が点いた。
「颯也?」と不安そうに部屋を見渡す嶋根と目が合った。
「え!?い、いた!!」と彼は驚き、俺のところに走り寄ってきた。
「電気も点けないでどうした?」と彼の目が俺の顔を覗き込む。
やけにリアルな幻覚だと思った。
「具合悪い?病院行くか?」と彼が心配そうに頬を撫でた。
俺の手より数段温かくて大きい手だ。
俺はたまらなくなって目の前の幻覚に飛びついた。
そのまますり抜けてべしゃりと床に落ちるかと思ったけれど、この幻覚には実体があるようで「おお、びっくりした」と言いつつ受け止めてくれた。
「どうしたんだよ、颯也。
寂しかった?なーんて」
という彼にかぶせるように「寂しかった」と言った。
普段なら絶対に言わない。
だって重いから。
でもこれは幻覚なので言っていい。多分。
「なんだお前、可愛いな」とわしゃわしゃと彼の手が俺の頭をなでる。
嶋根は俺を犬みたいに撫でないのでやっぱりこれは幻覚なのだろうなと思った。
「俺がいない間、二丁目行った?」
「行ってない。
宝くんがいつ帰るか分からないから」
「宝くん?嶋根くんじゃないの?」
「宝くんでいいの」
どうせ幻覚なんだから。
普段は恥ずかしくて決して呼ばないけれど。
「ふはっ、ずっとそれでいいよ。
あ、飯食った?」
「食べてない」
「マジ?なんか買ってくるか…、それか宅配。
この時間まだやってるかな…」
そう言って俺の手を外そうとするので、より力を込めた。
「颯也?」
彼が不思議そうに俺の名前を呼ぶ。
「ご飯はいいから」
「いや、でも…」
「抱いて?」
「えっ?」
「エッチしたい」
「…、おまえなぁ」
嶋根は呆れたような声を出したが「よいしょ」と俺を抱き上げた。
慣れた足取りで寝室に向かう。
これは幻覚…、なんだよね?
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