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第6話

ゆっくりと意識が浮上する。 久々によく眠れた。 なんだか幸せな夢を見た気もする。 目を開きゆっくりと目の焦点が合い始め、目の前の塊が嶋根の顔だと分かり、俺は大声を上げそうになった。 え!?な、なに!? よく見たら部屋も俺の部屋ではなく、嶋根の部屋だ。 慌てて自分の手首を見るが、そこにはくっきりと紫色のあざがあった。 ゆ、夢じゃなかったー!!!! 昨日の記憶は曖昧で断片的だけれど、言いたいことを言いまくった気がする。 何か…、彼を束縛するような重い発言をした記憶もある。 と、とにかく自分の部屋に戻って考えを整理しよう。 そう思って自分に回された長い腕を解こうとあくせくしていると「おはよ」と声をかけられた。 やばい。起こしちゃった。 「お、おはよう。 とりあえず手を解いてほしいんだけど」 「ん?今何時?」 彼の視線が彷徨い、1点で止まると目を細めた。 時計を見ているらしい。 「まだ5時じゃん。 もう少し寝よう?」 彼はそう言うとさらに俺を強く抱きしめて目を閉じる。 っていうか、たぶんお互いに全裸だ。 色んなところが色んなところに擦れて、皮膚が粟立ち、心臓がバクバクし始める。 朝から盛ってしまいそうになる己に喝を入れて、俺は彼の胸をたたく。 「嶋根くんは寝てていいから、腕だけほどいてくれないかな?」 またぱっちりと彼の目が開く。 「宝くんって呼んでくれるんじゃないの?」 「なっ…」 やっぱり夢じゃないし、昨日のことを都合よく忘れてたりもしないらしい。 「それは夢の中だけだもん」 俺が口をとがらせると嶋根は吹き出した。 「俺にとってはずーっと夢じゃなかったんだけど? 宝くんって呼んでほしいな~。 呼び捨てでもいいけど」 呼べるわけがない。 っていうか、思い返してみても酷すぎるし、恥ずかしすぎて死んでしまいたい。 やっぱり別れたほうがいいと思う。 「あの、嶋根くん」 「何?」 「腕をほどいて」 俺が真顔で言うと彼は渋々、腕をどかしてくれた。 俺はベッドの上に正座する。 全裸だけど服を着る余裕はなかった。 「俺たち、別れよう」 「………、は?」 たっぷりの間の後、彼は声を発した。 あ、あれ? 今までの経験上、彼は去る者は追わないタイプのはずだから、すんなりOKしてもらえると思ったんだけど。 「俺、このままだと嶋根くんを嫌な気持にさせると思う。 だから、そうなる前に…」 「なんで?」 俺の言葉を遮るように嶋根が言う。 なんか怒ってる? 「なんでって…、俺、多分もう嶋根くんの隣にいるのが耐えられないと思う。 嶋根くんは悪くないよ!完全に俺の問題だから」 俺に振られるのが耐え難いというのなら、嶋根から振ったことにしていい。 本当に彼は悪くない。 俺が、彼との契約を守れそうにないだけなんだ。 もう、彼がほかの人にフラフラするのを嫉妬せずに黙認することは出来ないと思う。 「颯也の問題って…、じゃあ俺の気持ちは? っていうか、もう俺のこと好きじゃなくなったってこと?」 思わぬ言葉に俺は慌てて否定する。 「嶋根くんを好きじゃなくなるなんて無理だよ。 でも、今までと同じように好きでいるのが難しいんだ」 俺の言葉に嶋根は首をひねる。 「ちょっと待って。 本当にどういうこと…? 今までと同じようにって何?」 本当にわからないのだろうか。 俺は唖然とする。 「…、つまり、嫉妬しないとか他に恋人がいるのを許すとか、そういうのがもう無理ってこと! 嶋根くんはそのままでいいよ。 嶋根くんみたいにモテる人が俺だけと付き合うなんて勿体ないもん」 恥ずかしかった。 その条件でいいと付き合ってもらったくせに、今さら嫉妬するなんて情けない。 これで終わりなんだと思うと寂しいけど、どこかホッとした自分もいる。 常に気が狂いそうなくらい胸が苦しいのは嫌だ。 「だからさ、俺の気持ちは? 俺はとっくに颯也以外の人間は切ってるし、颯也が俺以外の人間を好きになるとか無理なんだけど。 相思相愛なのになんで別れなきゃいけないの?」 「嫉妬するよ?」 「俺もする」 「束縛しちゃうかもよ?」 「俺はしたい」 「う、あ…、飲み会とかも本当は嫌」 「ああ…、あれは嘘」 「へ?」 「あれね、颯也に嫉妬してほしくて嘘ついてた。 いつもネカフェかビジホにいる」 「はぁ?」 さすがに"そっか~"では済まない。 嘘でも本当でも、まったく意味が分からない。 「いや、本当にごめん。 会社の奴からもバカみたいって言われた。 俺もすぐに帰って颯也の顔見たいのにっていつも後悔してた」 俺にとっての嶋根って、かっこよくて完璧で、たった1人の人間に執着したりしない存在だった。 どうやら勘違いだったみたいだ。 だってこんなの… 「しょーもな」の一言に尽きる。 「う…、ごめん。 俺のこと、嫌いになった?」 しゅんとベッドの上で小さくなる百戦錬磨のイケメンに笑いそうになる。 俺なんかの”しょーもな”という言葉でこんなに凹んでいるだなんて。 「ならないよ。 こんなことで嫌いになるならそもそも好きにならない。 俺はたぶんずっと嶋根くんのことが好きだと思う」 俺がそう言うと嶋根は「颯也~!!」と言いながら胸に飛び込んできた。 受け止めて後頭部を撫でていると、あろうことか彼が俺の体を弄(まさぐ)り始めたので「会社!!」と言いながら引っぱたいて止めた。 「え~!今の絶対仲直りセックスをする場面なのに!!」と彼は嘆いているが、彼との情事は非常に時間がかかるので、絶対仕事に影響する。 まあ今思えば長すぎる行為も愛ゆえだったのかもしれないけれど。 「帰ったらね」と俺が言うと「定時で帰る。毎日」と満面の笑みになった。 ここまでくると体目的なのではないかとすら思うけれど、俺より可愛くてスタイルのいい人は彼の周りにいくらでもいるので、これも愛ゆえなのだろうと一人で納得した。

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