fujossyは18歳以上の方を対象とした、無料のBL作品投稿サイトです。
私は18歳以上です
クローン兵Ωと獣王の密約 第14話 消せない匂い | たもゆの小説 - BL小説・漫画投稿サイトfujossy[フジョッシー]
目次
クローン兵Ωと獣王の密約
第14話 消せない匂い
作者:
たもゆ
ビューワー設定
15 / 19
第14話 消せない匂い
達
(
い
)
き果ててから、三十分ほどが経過しただろうか。 まさに精根尽き果てたと言うに相応しいほど、下半身には思うように力が入らなかった。 未だに体内で膨らんだままの
塊
(
ノット
)
のせいで逃げ場もなく、俺はただ観念したように無言で目を閉じるしかなかった。 一方のジルヴァは、俺にその巨躯を預けないよう気を遣っているのか、腕と頭を支えにして僅かに身体を浮かせ、俺を押し潰さないように覆いかぶさっていた。 互いに相手の表情を窺い見ることはできない。 ジルヴァは微かに身じろぐと、「……もう寝たのか?」と静かに問いかけてきた。 「これのせいで、寝られねぇよ」 言いながら体毛に覆われたジルヴァの腰をぽふっと力なく叩くと、返事のかわりに、長く太い尻尾が鞭のようにしなり、俺の手をあやすようにするりと撫でつけた。 せめて煙草が吸いたい。 シケモクもプラズマライターも丸テーブルの上に置きっぱなしだ。 俺は目の前の鬣にふーっと息を吹きかけ、紫煙を吐き出す真似をしながら「煙草が吸いてぇ」と小さく母語で一人ごちた。 だが、単なる壁打ちだったそれに、打ち返す者がいた。 「貴様ら人間は、なぜあんなものをありがたがる?」 ジルヴァだ。俺は一瞬、言葉の意味が理解できなかった。 「何のことだ?」 「“しがれっと”だ。今、欲していただろう」 俺は驚き、言葉に詰まった。ジルヴァは俺の独り言を聞き逃さず、その意味を捉えていたのだ。 「……英語が分かるのか?」 「少しな。前王が健在だった頃、人間の言葉を解するように勧められた」 「どうやって覚えたんだ? 連合軍が教師を派遣したとは思えんが」 「昔、貴様らの補給施設作りに駆り出された同胞がいた。過酷な現場で独学で覚えた言葉を、前王が城に持ち帰らせたのだ」 俺は言葉を失った。 連合軍の連中は、原住民を文明の遅れた蛮族だと決めつけ、自分たちの優位を疑いもしない。 ここにある秩序も、自然と共に生きる精神も、
使役獣
(
しえきじゅう
)
の言葉を解す独自の能力も、あいつらは何も知らないのだ。 ――一体、蛮族はどちらなのか。 知ることを放棄した奴らが、知ることをやめなかった男に足をすくわれるのは歴史の必然だ。 この男なら、いつかあの高慢な連中に痛快な一矢を報いてくれる。 ただの予感に過ぎない。だが、その未来を確信した瞬間、喉の奥に乾いた熱狂がじわじわと広がっていった。 「……なるほどな。その賢王の血を、あんたも引き継いでるってわけだ」 俺が感心混じりにそう投げかけると、ジルヴァは一拍置いてから静かに
頭
(
かぶり
)
を振った。 「……いや。言っていなかったか? あの男は父同然ではあったが、血の繋がりはない。子供だった俺が、当時の王だったファムートに
拳大
(
こぶしだい
)
の石を投げつけたのが始まりだ」 「……は? あんた、王様に向かってそんなことしたのか!?」 俺の心底呆れたような驚愕ぶりに、ジルヴァは暗闇の中で低く肩を揺らして笑った。 「ああ。……当時、ファムートは連合軍との融和を受け入れ、ユバに軍事施設の建設を許可した。だが、その建設現場の事故で、俺の本当の父親は死んだ。……幼かった俺には、王以外に怒りの矛先を向ける相手がいなかったのだ」 静かな声だった。過去の傷を誇るでもなく、ただ記憶の糸を辿り、懐かしむような語り口だった。 「幼少とはいえ、普通ならその場で首を跳ねられてもおかしくない。だが――父は……ファムートは、『見込みがある』と言って俺を拾い、城に招き入れた。処世術を叩き込まれたのはそれからだ」 「……そうか」 俺はそれ以上、何も言うことができなかった。 血統や血筋ではなく、器量と実力のある者に王座を譲る。 血に胡座をかき、生まれで人をランク付けする人間どもとは大違いだ。 口を噤んだままの俺に、ジルヴァもしばらく口を閉ざしていたが、やがて控えめな声が薄闇の中に溶け出した。 「お前はどうだ? 子を孕める身体でありながら、なぜ軍人になった?」 「…………」 すぐに言葉が出てこなかった。それは言いたくないというより、“クローン”という概念に当てはまるヴェルデ語が瞬時に思い浮かばなかったからだ。 「……言いたくなければ無理に話さなくても構わん」 「……あー、いや……そういうわけじゃねぇ。ただヴェルデ語でなんて言やいいのか、考えていただけだ」 俺は視界を覆う黄金の鬣の奥へ視線を彷徨わせたあと、一思案してから言葉を探すようにゆっくりと口を継いだ。 「……俺は、母親の腹から生まれたわけじゃない」 慣れない言葉を選択しながら、ぽつり、ぽつりと紡ぎ出す。 「ガラスの筒の中で、誰かの細胞を複製して作られた……使い勝手のいい兵士としてな。最初から『選択肢』なんてなかったんだ。意思を持つことも、子供を産むことも期待されていない。ただ戦って、死ぬためだけに造られた、人の形を模したただの人形だ」 ジルヴァは相槌を打つこともなく沈黙を守ったままだった。 理解した上で言葉を失っているのか、それともあまりに異質な存在形態に理解が追いつかず固まっているのか。 「だから俺は、自由になりてぇんだ。誰の道具でもなく、自分の意思だけで生きていけるようにな」 静かな吐露が薄闇に溶けたあと、一拍置いてから、のそりとジルヴァが巨躯をずらした。 内部を満たしていた質量が、ずるりと粘膜を擦り上げながらゆっくりと引き抜かれていく。 「……っ」 その感覚にぞくりと背筋が粟立ち、思わず漏れそうになる息を殺して奥歯を噛んだ。 あれだけ悪態をついていたというのに、いざ解放されると、長時間あの太い肉塊を咥え込んでいた身体の奥が、異様な物足りなさを訴え始めたことに、自嘲の笑いが込み上げた。 そんな己の卑しさと情けなさに耐えかねて視線を逸らすと、ジルヴァは俺の顔を低く覗き込み、黒い爪の背でそっと頬の熱を撫でた。 「お前の怒りの正体がわかった」 ジルヴァは同情することも、慰めることもなく、ただ俺の吐き出した言葉を静かに、胸に落とし込むように噛み砕いているようだった。 「風呂は用意させてある。綺麗に洗ってくるといい」 ジルヴァはゆっくりと身を起こすと、ローブを羽織りながら冷ややかな、けれどどこか熱を帯びた瞳で俺を見下ろした。 「……言っておくが、どれだけ湯を浴びようが、俺の匂いが落ちることはない」 それだけ言い残すと、ジルヴァは背を向け、足音もなく部屋を去っていった。 重厚な扉が閉じられると、それまで充満していた熱気が嘘のように、静寂と冷気が室内に滑り込んでくる。 「……っ、ああ、くそっ」 ぽつりと毒づいて起き上がろうとしたが、腰に力が入らない。 身体の表面は急速に冷えていくというのに、深く塞がれていた腹の奥だけが、ズシリと重い熱を孕んだままだ。 匂いは、消えない。 鼻腔にこびりついた獣の匂いだけじゃない。内側を強引に暴かれ、注ぎ込まれた体温と、あの澄んだ深緑の瞳が残していった重みが、胸の奥に澱のように溜まっている。 道具として殺風景に作られたはずの俺の身体が、あの男の言葉と熱によって、嫌というほど「生きている肉体」として揺さぶられていた。 俺は込み上げる複雑な熱を誤魔化すように乱暴に頭を掻きむしると、軋む身体を引きずって、用意された湯殿へと向かった。
前へ
15 / 19
次へ
ともだちにシェアしよう!
ツイート
たもゆ
ログイン
しおり一覧