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2.企み

「飲み会しませんか?」  4月に異動してきた人たちもようやく慣れてきた10月、パートの女の子(と言っても25歳は越えているはずである)に声をかけられた。彼女は食べることやカラオケが好きらしく、他のパートの子たちと計画を練っていたらしい。幹事は私です! と音頭をとり、元々仲がいい職場の人間は半分以上が参加することになった。その参加者の中に中山さんがいることを確認して、俺はパートの女の子に「二次会はカラオケがいいな」とさりげなく伝えておいた。  7月にも会社で飲み会はあった。その時も二次会はカラオケで中山さんは課長に引きずって行かれていた。課長もまたカラオケが大好きで、会社内には係長以上限定の「カラオケ友の会」なるものがあるらしい。そこで歌う歌を仕入れたいからと課長は積極的にカラオケに参加しているようだった。  あの歓迎会から約5か月。俺はもうただ見ているだけでは我慢できなくなっていた。  飲み会が金曜日ということもあり、早めに飲み会の場所や二次会のカラオケの場所を聞きだして近くのシティホテルに予約を入れた。うまく捕まえられなければ自分一人で泊まったっていい。確かあそこの朝食バイキングは絶品だとネットのクチコミに書いてあった。  実は男同士でどうするのか、ということも調べていた。男女と違って繋がることがゴールではないらしい。しごきあうだけで十分快感だし、下手に尻に入れようとして萎えるのもごめんだった。一応潤滑剤の用意をしつつ、最初はお互いの裸を見るぐらいのつもりで考えていた。実際中山さんの身体を見たら覚めるかもしれないし。  飲み会の当日、果たして中山さんは課長に引きずられて二次会に参加させられていた。課長に促されて曲を選ばされている彼は気弱そうに見える。中山さんを課長と挟んで反対側に座っているパートの女の子が嬉しそうにしているのが不快だった。 (オマエ既婚者だろ? 中山さんにくっついてんじゃねーよ!)  ただの言いがかりなのだが今の俺はそれだけ余裕がなかった。やがて二次会が終り支払いを終えた後、 「今日は付き合っていただいて本当にありがとうございました!」  とパートの女の子たちに言われて恥ずかしくなった。こんな心の狭い男が中山さんに声をかけてもいいのだろうか。けれど諦める気はない。ぞろぞろとカラオケを出、駅に向かおうとする中山さんに声をかけた。 「中山さん、これからまた飲みに行きませんか?」 「え? 三次会かい? けっこう飲んじゃったからなぁ……」 「ちょっと仕事の相談もあるんですけど、ダメですか?」  嘘は全くついてない。中山さんはしぶしぶとだが付き合ってくれることになった。  来年度の業者入札の話が本格化しており、どう対応するのか詰めたかったのは本当だ。しかしこれは別に週明けの職場で話してもいい案件ではある。  ホテルのバーでなんとなく乾杯する。中山さんは慣れない場所らしくいささか緊張しているようだった。 「ここは俺のおごりですから」 「そんなわけにはいかないよ」  苦笑で返されるが、何が何でも払うつもりだ。中山さんを酔い潰す気満々なのだから。  そんな風にしてグラスを傾けていく。間接照明の中、ほんのりと頬が赤く染まっている中山さんは色っぽく見えた。やがて彼の目がとろんとなり、ぱったりと寝てしまった。どうやら酔うと寝てしまうらしい。  ホテルの従業員の手を借りて、予約しておいた部屋に入った。 「中山さん、水飲まないと」  声をかければ弱弱しいながらも反応が返ってくる。とろとろと微睡んでいる中山さんの身体を起こし、少しずつ水を飲ませた。そうして服を全て脱がせてみたが、意外に身体は締まっており、俺はかえっていきりたった。 (俺、ゲイだったのか……)  と思って課長の身体を想像したら気持ち悪くなった。どうやら中山さん限定らしいとほっとする。  全身アルコール臭いが特に加齢臭はしなかった。そういったところも好感が持てるし、ほんのりと赤く染まった身体はいかにも据え膳で、とてもおいしそうに見えた。  とはいえ寝込みを襲うのはどうかと思う。百歩譲って女の子に襲われるならありかもしれないがさすがに男同士で意識のないまま身体をまさぐられるのは嫌だろう。とりあえず中山さんの服を隠してシャワーを浴びることにした。  中山さんの裸から離れたせいか自身の勢いは一旦衰えたが、それでも一度抜いておいた方が無難だろうと彼の裸を思い浮かべながら抜いた。 (普通にヌけた……)  再確認してベッドに戻ると、中山さんはまだ気持ちよさそうに眠っていた。いたずら心を出して裸のまま同じベッドに潜り込む。もちろん自分の服も一緒に隠したので、もし彼が目覚めても着替えて逃げ出すことはできないだろう。満足そうに笑んで彼を抱き込み、朝まで安心して寝た。

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