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第8話 邪な視線。

 昼が過ぎた頃、予告通りバッセル伯爵はラファエルのもとを訪ねてきた。  レイモンドは手帳を確認した。  『殿下とバッセル伯爵を二人きりにしてはならない』、と、そう記入してあった。  どういうことだろう、と、最初はそう思った。 「ラファエル殿下、お会いしとうございました!!」  そのバッセル伯爵を見て、レイモンドは理解した。  ラファエルに向ける視線には、隠しようのない邪な欲が滲んでいた。  さすがのラファエルも嫌な表情を浮かべるかと思いもしたが、当人はそんな気配もなく微笑んでいた。 「久しいな、バッセル。貴公主催の夜会に出席出来ず、悪かった」 「いえいえ、体調を崩されていたと聞きました。その後、ご気分はいかがでございますか?」 「実のところ、今もあまり調子が良くなくてな……」  いつも通り調子がいいと思っていたレイモンドは、主人のその言葉を聞いて自分の見立てが間違っていたのかと、声を掛けようとした。  その瞬間バッセル伯爵はレイモンドを怒鳴りつけた。 「そこの執事!!何をボサッとしている、医者を呼んでこいっ」  この応接間にはラファエルとバッセル伯爵、そして自分の三人しかいないのだ。  部屋を出なければ対処が出来ないのは分かっているが、手帳には二人きりにしてはならないと書かれてある。 「殿下、ご気分が優れないのならば私めが首元を緩めて差し上げます」  バッセル伯爵の指が胸元に触れた瞬間、ラファエルの肩が僅かに強張った。  主人の態度に違和感を感じたレイモンドは声を掛ける。 「ラファエル殿下、お部屋でお休みになられますか?」 「……そうだな、私は部屋で休む。バッセル、今日は引き取ってもらえるか?」  やはり、と、レイモンドは思った。  ラファエルはバッセル伯爵に触れられたくなかったようだ。  レイモンドはラファエルを支えると、その身体は小刻みに震えていた。  顔色を窺うと、ただでさえ白い肌はさらに青白くなっていた。  レイモンドは無表情でバッセル伯爵に言った。 「どうかお引き取りを」  その無表情は、いつになく迫力を宿していた。

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