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第9話 カモミールティー
ラファエルを部屋まで送ると、レイモンドはカモミールのハーブティーを淹れた。
これは手帳に書いてあったものではなく、レイモンドの意思で淹れたハーブティーだった。
レイモンドの兄が息抜きとして好んで飲んでいたカモミールハーブティーは青リンゴに似た香りが特徴で、リラックス効果があるのでは、と考えたのだ。
ラファエルは未だ身体を震わせていたが、それを飲み終わる頃には止まっていた。
「……とても良い香りだ」
その彼の表情は苦笑だった。
手帳の『二人きりにしてはならない』の意味が、そんなことを指していたとは思いもしなかったレイモンドは、ラファエルに膝をついて謝罪をした。
「殿下、申し訳ありませんでした」
「お前のせいではない、レイモンド。謝るな」
ラファエルはレイモンドの肩に手を置き『立て』と命令をした。
「御無礼を承知でお聞きいたします。殿下は……、あのような行為を望んでいないのですね?」
もしラファエルが望んでいなかったのなら、あの夜会のガゼボで見たものも、合意ではなかったのではないか。
それを芸術品だと思いながら傍観していた自分は、その紳士達と何ら変わらないと思った。
「そうだな、私が望んだ結果ではない。……けれど何故かそうなってしまうのだ」
この第三王子の噂は『男ならば誰でもいい、無能王子』、しかし彼は望んでいないのだ。
「何故嫌だと仰らないのですか」
レイモンドは不思議だった。
『嫌だ』と言えば、相手の行動は止まる。
何故ならラファエルは王族、手を出してくる相手は王族よりも身分の低い者達なのだから、と、そう思っていた。
「たとえ嫌だと言ったとしても、飢えた野獣が相手ならば止まることはない。……むしろエスカレートさせるだけだ」
その言葉を聞いてレイモンドはラファエルを理解した。
何もかもを諦めた人なのだ、と。
レイモンドはその切なさに胸を痛め、切れ長の瞳に涙を溜めた。
その執事を見たラファエルは微笑みながら言った。
「私のために泣いてくれるのか、レイモンド」
「……私は悔やんでいるのです」
あの夜ガゼボで紳士達と戯れていると思い、助けられなかった自分が悔しくて、情けなくて、レイモンドは泣いた。
「私の分まで泣いてくれ、レイモンド」
そう胸を貸してくれたラファエルに、レイモンドは父性ではなく母性を感じていた。
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