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08東方視察と犠牲者

「シルバ、聡明なあなたなら今王宮に不名誉な噂が流れているのを知っているでしょう」 「はい、皇太后様」 「幼馴染のシックと言ったわね。その者を東方部隊長に任命してあげるから、貴方もついていきなさい」 「アルジャンに黙ってそんなことが可能ですか!?」 「無論、当初は東方視察という形をとりましょう。その間にアルジャンには他の女性をあてがうわ」 「わかりました、幼馴染の希望が叶えられないのは悲しいですが皇太后様にしたがいます」  僕は皇太后様との二人のお茶会でこう言われた。これでアルジャンと過ごす日々もお終いだ。皇太后様は僕が生活に困らぬようにお金もそれなりに渡してくれた。その日、お茶会から帰って王妃の部屋にいるとアルジャンが苦虫を嚙み潰したような顔で帰ってきた。 「…………母上がお前を東方視察にやれだと」 「うん、聞いたよ。しっかりと視察してくるね」 「俺にお前無しで眠れというのか!?」 「そんなにおおげさなことじゃないでしょ」 「東方視察は三カ月もかかるんだ」 「仕方ないことだよ、アルジャンも我慢してね」  その夜のアルジャンはしつこくて僕に何度も何度もキスしてきた。自慰を手伝わせて何度も何度も僕の手の中でいった。アルジャンはもうキスしてないところは無いんじゃないかってくらい、僕の体と顔にキスをしていった。 「俺がいないからって浮気するなよ」 「あはははっ、しないよ」  僕はともかくアルジャンは他の女生と浮気するかもねと思った。そうして何度目か分からないが自慰が終わると綺麗に片づけてアルジャンはやっと眠った。 「…………ごめんね、アルジャン」  僕は自由になれるはずなのにアルジャンがなんだか可哀そうでなんとなく謝罪した。そうして僕も最後になるだろうと思いながらアルジャンの腕の中で眠りについた。その翌日には僕は東方視察に出かけていった。その前に僕はシックに謝った。 「ごめん、シック。僕と噂になったばかりに東方部隊長になることになって」 「謝んなよ、シルバ。近衛隊になれなかったのは残念だが、東方部隊長だってやりがいのある仕事さ」 「君が前向きで嬉しい、分かった。もう謝らない」 「それがダチってもんさ」  こうして僕は国の中で東方部隊長が必要な地域へ旅立った。表向きは東方視察として、実際は永久的な追放だった。シックはもう遠慮はいらないよなと僕に剣術をならうようになった。この国の東方には他に国家が無くて海が広がっているだけだった。戦争の心配が少ないから近衛隊になりたてのシックでも東方部隊長に選ばれたのだ。部隊長が弱くてはいけないとシックは僕から熱心に剣術を習った。それは良いことだったのだが、問題はアルジャンだった。彼は一日もかかさず僕に手紙を送ってきた。 「”シルバ、不自由はしていないか? 嫌になったらすぐ戻ってこい”」 「”シルバ、こっちは女どもが煩い。お前がいないからだ。戻ってこい”」 「”シルバ、お前がいないとよく眠れん。今日も煩い女を叩き出した。戻ってこい”」 「”シルバ、どうか戻って来てくれ。お前がいないと俺は倒れそうだ”」 「”シルバ、東方視察はそんなに重要じゃない。俺の元へどうか戻ってこい”」  僕は当たり障りのない返事をアルジャンに送っていたが、アルジャンからの手紙はだんだんと狂気じみてきた。 「”シルバ、お前によく似たΩを差し出されて抱きそうになった。俺はお前じゃなきゃ嫌だ。戻ってこい”」 「”シルバ、最近は女もΩも皆が煩い。縊り殺しそうになる、戻ってこい”」 「”シルバ、お前がいなくて気が狂いそうだ、迎えにいきたい。いいと言ってくれ”」 「”シルバ、とうとうしつこいΩを一人殺してしまった。お前じゃないのにしつこいから、戻って来てくれ”」 「”シルバ、もう我慢できない。母上も煩くて殺してしまいそうだ。戻ってこい、戻って来てくれ”」  僕は仕事だから戻れないといった手紙をアルジャンに送っていたが、お前じゃなくてもできる仕事だ戻ってこいと手紙をアルジャンから貰った。僕は頭を抱えてシックに相談した。シックは手紙を全部読んだうえでこう返事するように言った。 「”Ωを殺すようなアルジャンは怖い。僕は仕事をする、戻れない。優しいアルジャンに戻って”」  こう返事をした直後、アルジャンからはぷっつりと手紙が来なくなった。僕はそれでアルジャンが落ち着いたんだと思った。でも現実は違った、その夜からアルジャンは僕以外で寝所に来る者を殺し始めたのだ。何人もの女性や男のΩが犠牲になった。 「”シルバ、追放を取り消します。今すぐにもどってきなさい”」  そしてとうとう皇太后様からも僕に戻ってくるように手紙がきた。僕はまたあの王宮に戻ることになってしまった。 「止めとけ、逃げろ。戻ったらお前が殺されるぞ」 「逃げたらアルジャンがもっと怒るよ、僕は戻るよ。シック」 「そうか、なら短剣を持っていけ。護身用だ、枕の下にでも入れておけ」 「いや、アルジャンを余計警戒させるだけだよ。僕は身一つで戻るよ。シック」 「そうか、それじゃせめて護衛は精鋭をつける。道中、気をつけろよ」 「ありがとう、シック」  僕が仕事を辞めて戻ると返事をした途端、またアルジャンから手紙が届き始めた。アルジャンは女性や男のΩを殺すのを止めて待っていると書いてきた。正直なところ僕はアルジャンが凄く怖かったが、なんとか勇気を奮い起こして王宮に戻って来た。

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