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14産みたくない
皮肉にも僕が妊娠したことで穏やかな生活が訪れた。アルジャンは僕を抱かないし、夜一緒のベッドで眠るだけだ。ただ僕はつわりが激しくてほとんど何も食べられなかった。僕はこれで死ねるかと思ったが、王宮医師が栄養のある薬を無理やり僕に飲ませた。だから死ねなかった。
「シルバ、可愛い奴め。少し腹が大きくなったな」
「まだ動かないから実感がない」
「ここにシルバの子がいるというだけで可愛い」
「そうですか、僕には忌々しい」
「そう言うな、子どもが動き出したら可愛いと思えるだろう」
「そんなものかな」
アルジャンは毎晩、僕の王妃の部屋を訪れてそんなことを言った。あれだけ性欲が余っていた人なのに浮気もしなかった。僕としてはアルジャンに浮気して欲しかった。そうすれば僕を王妃から辞めさせるかもしれなかったからだ。だからこう聞いた。
「性欲は大丈夫なのですか? 浮気したって僕は怒りませんよ」
「シルバ、それは夜のお誘いか?」
「はぁ!?」
「王宮医師からも激しくしなければお前を抱いてもいいと言われていた」
「違う、そういう意味じゃない!!」
「ふふっ、シルバから誘われたなら断れないな」
それからはまたアルジャンが僕を抱くようになった。しかも前みたいに激しい抱き方じゃなくて、ゆっくりと労わりながら抱くのだ。もう妊娠しているし僕には抵抗する気力もなかった。だからアルジャンに体中にキスされ、彼のものを受け入れる時も何もしなかった。アルジャンはそれを僕が自分を受け入れたのだと思ったようだ。産まれる前なのに赤ちゃんの服などの贈り物が増えた。もちろん赤ちゃんだけじゃなく僕への贈り物もあった。
「アルジャン、僕は宝石も美しい服も興味が無い」
「シルバは欲がないな、何でも望めば贈ってやるぞ」
「じゃあ、僕を抱かないでくれる?」
「それは無理だ、俺はシルバ以外抱く気が無いからな」
「僕の本当の望みは叶えてくれないんだね」
「そういうな、夫婦が仲良くしているのは子どもにも影響がいい」
こうしてだんだんと僕の腹の中で子どもは育っていった。胎動を感じた時には驚いた。本当に僕の中に子どもという生命がいるのだと改めて感じた。でもだからといって愛情は持てなかった。だって産みたくなかった子どもだ。愛情を感じろという方が無理だった。逆にアルジャンは大喜びした、体動を感じてますます僕への贈り物が増えた。
「どうか帝王切開になりますように」
「シルバ、その手術は危険だから、普通に産まれたほうがいいぞ」
「アルジャン、僕は妊娠したくないって言ったよね」
「だが妊娠した、あとは健やかな子どもを産むだけだ」
「産みたくない、産みたくないよ」
「シルバ、どうした。また王宮医師を呼ぼうか」
Ωの王宮医師は帝王切開には滅多にならないと教えてくれた。でも僕はむしろそうなって欲しかった。産みたくなかったし、死んだ方がマシだと思っていたからだ。そんな僕に王宮医師は妊娠も後期になって情緒不安定になっていると診断していった。その日からアルジャンは僕を抱かなくなった。妊娠中の僕に負担をかけてはいけないという理由だった。そのことだけは良かったから僕は少し喜んだ。そうしてとうとう出産の時が来た。
「い、痛い!!」
「そうしていきんでください。王妃様」
「無理だ、帝王切開にして」
「大丈夫です、自然分娩でいけます。王妃様」
「凄く痛い!! うぅ!!」
「その調子です、王妃様」
僕の出産はかなりの時間がかかった。アルジャンは僕の手をずっと握っていた。そうして声をかけ続けていた。
「シルバ、王宮医師の言う通り力を入れろ」
「もうやだ!! 帝王切開が良い!!」
「それは危険だ、さぁ力を入れろ」
「痛い!! ううぅ!!」
そんなことを数時間しているうちに子供が産まれた。アルジャンはそれをとても喜んだ。僕は出産で死ねなかったことに絶望した。産まれた子は女の子だった。アルジャンがその子を抱いてこう言った。
「マーレと名付けよう、シルバ。いいか?」
「もうどうでもいいよ」
「そういうな、お前の初めての子だ。抱いてやれ」
「…………小さい」
初めて抱いた我が子はとても小さかった。子どもへの愛情がうまれたわけではないが、こんなに小さくて大きくなれるのかと心配になった。それに死ねなかったことに絶望してたから、その元凶の子どもを可愛がれなかった。僕はすぐにアルジャンに子どもを返した。一瞬だが、この子のせいでと思って抱いていたら子どもを殺してしまいそうだった。
「僕はマーレの世話はしないからね」
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