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第3話

 清陽(チンヤン)の執務室をあとにすると、明紅(ミンホン)は自信の執務室へ来て書類を机の上に置いた。 『仕事だ』  念言術で呼び出すと、一人の犬が執務室の扉の下部分に取り付けられている通路口からやってきた。 「わん!」と吠えた犬は、たちまち少年へと姿を変える。 「仕事ってなんですか?」  無垢な瞳でにこにこと笑う少年は本当に犬のような愛らしさを持っている。  だが、こう見えても明紅ほど年齢を重ねているわけではないが、千年以上の年月を生きている。  そのうえ、神通力を使いこなせるほどの修行を耐え抜いた実力者でもあるのだ。“犬”の部類でも賢い部類の犬である。 「朱亮、面倒な仕事を任されてしまった」  彼の名は朱亮(ジュウリャン)で、字を朱紅亮(ジュウホンリャン)と言う。  知り合ったときは字を持っていなかった朱亮が『字にあなたの紅をつけたい』と言ったことで、紅亮(ホンリャン)という字になった。あの頃は犬の姿もまだ子犬そのもので、叩いたら潰れてしまうんじゃないかと思うほどだった。  もっといい字があっただろうにと、紅陽(ホンヤン)は今でも思っていた。しかし、自分が曾祖父の「清陽(チンヤン)」という字から「陽(ヤン)」をもらったことと、さほど変わらない動機だったせいで認めるしかないのだ。 「兄さん、あなたは清陽さまにとって必要不可欠な存在です。だから頼られる。どんな仕事なのですか?」 「月沈国の裴(ペイ)王朝の現皇帝を殺してほしいという祈祷があったんだ。その祈祷の依頼を頼まれた」 「それは何とも難しい依頼ですね。今の皇帝を殺すのはあまりにも難しい」  書類には一字一句間違いなく祈祷したときの内容が書かれている。  どこで、誰が、なにを。  その書類を読みながら、頭に関係図を描き、それを朱亮にもわかりやすく説明する。 「まず、依頼者は月沈国皇帝第一皇子であり、皇太子でもある裴弦。祈祷の内容は、実父でもあり、現在の皇帝を殺してほしいとのことだ。その実父でもある皇帝は先帝を殺している。暗殺されたことへの復讐だ」 「でも、17代目皇帝が即位したのは8年前ではないですか? なぜ今更復讐なんてしようとしているのでしょうか」 「……調べる価値はありそうだ」 「ですが、それを調べるには皇太子に接触する必要があります」 「皇太子に接触するのは簡単だよ」 「どうするのですか?」 「神像のある場所に行けばいい。きっとまた祈祷しにくる」  ふふ、と微笑んだ明紅の表情に朱亮は笑顔を咲かせた。 「さすが兄さん!」 「朱亮も分かっていただろうに」  ため息をついたが、朱亮は首をぶんぶんと勢いよく振った。 「そんなことはありません!」  いつまでも弟のようで、可愛らしい。いつも後ろをくっついて歩いてくる根も心も犬のようである。そんな朱亮は明紅にとって大切な部下でもあり、弟分でもあった。

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