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第22話
久方ぶりにやってきた明然の家は、初めて訪れた前回と同じ様子だった。
建物の中は質素で、そして誰もいない。
「座ってて」と言われ、明紅は長椅子に腰を下ろす。姿をどこかに隠した明然がお茶を持って戻ってくると、茶を椀に注ぐ。それを受け取って口にする。
明然は斜め隣の席に座っていたが、明紅が茶を飲んで椀を置いたのを見計らって隣に座った。
「どうした?」
「兄さん」と呼ばれる。
その声は年下が甘える声色以外のものが含まれていた。
明紅は今まで独身で、純潔を貫いてきた。その方がより神に近い存在になれると言われてきたからだ。しかし、全くそのようなことに巻き込まれてこなかったわけじゃない。
欲情した妖の女性、時には男にも欲情されて襲われそうになることもあったのだから。
「は、ははっ」
恥ずかしさを超えて、明紅は笑ってしまっていた。もはや笑うしかできなかった。
「なにがおかしいの?」
「いや……まさかお前にそんな態度を向けられるとは思ってもいなかった」
「そんなって?」
「欲情している。俺に」
「僕もう大人だよ」
そう言って明紅の手の上に手を重ねる。ぐっと距離を縮めた明然との距離は、もう鼻先が触れ合うほどに近づいていた。
「……兄さんって初心?」
「初心もなにもない」
「文字通り?」
「なにも。ない」
「……兄さん……いや、明紅? 明紅、俺はあなたのことがずっと好きだった。口づけもしたいし、それ以上のこともしたいんだ」
「私は純潔を貫くつもりだ」
「天狐さまって子供たくさんいるのに、純潔なの?」
それを言われたらおしまいだ。
純潔がいいのはただの教えであり、神となった天狐さまには関係がない。そして、天狐さまに次ぐものとなった明紅にもほとんど関係のないことではある。
「兄さんがほしい。でも、あなたが嫌ならなにもしない」
目を閉じた明然はふっと静かに息を吐いた。そして、そのまま動かなくなる。何かを待っているように。
明紅は唾を飲み込んだ。心臓がドクドクと音を鳴らし始める。
強引に口づけを奪われそうになったり、実際に奪われたりしたことは何回かあるが、待たれるのは初めてのことで、緊張もしてしまう。
だが、明紅は明然を愛弟子だと思っていたのだ。ただ、それだけだった。だからこそ、この関係に区切りをつける必要があった。
明紅は鼻で息を吐くと、明然の頬に軽く口づけた。
「これで我慢しろ」と、耳元でささやく。
明然の顔を見れば、顔を真っ赤に染め上げていた。そして、目を閉じたままぷるぷると震えている。
「ずるい……」
「自分から迫ってきたくせに」
そう言って額を小突くと、明然は目を開けてこちらをにらみつけた。
「そんな顔をするな」
「兄さん、絶対私はあなたに好きになってもらいます」
「ああ。頑張れ」
そう言って明紅は明然の頭を撫でた。
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