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第26話

 おそらく、胡明一族の「明」はうちの一族がきっかけだからだと推測できる。  しかし、我が一族の掟には「人間と関係を持ってはいけない」というものがある。  関係というのは多くの意味が含まれるが、この掟の意味は「人間との間に子ができるようなことはしてはいけない」という意味である。 「この明黄って人……やばい人か?」  そんなことを思いつつ、明紅は巻物を戻して近くにいた小さな存在に巻物を返した。 「あと、都麗という人物の家系図もみたいのですが」 「都麗ですね。少々お待ちください」  明紅は近くにあった椅子に腰を下ろして待つことにした。  しかし、いつまで経っても探しに行ってくれた人物が戻ってくる気配がなく、瞑想をして待つことにした。  そこに戻ってきた小さな存在は眉を下げて困ったようにこう言った。 「都麗という人物は存在しません」 「存在しない? しかし、さっき調べていた胡明一族の中に名前がありました」 「名前が載っていたということは、存在するということです。ここにその人物の家系図がないということは、人間ではないということ。ここは人間の家系図しか扱ってi ませんから」  その言葉を聞いて、明紅は落胆した。  人間ではないということは、妖怪の類である可能性が高くある。  しかし、妖怪の中で家系図を扱っているような場所があるわけではない。  もし家系図があるのであれば、明紅のような良家である。  普通の家だったり、人間もしくは生き物だった存在が妖になった場合だったりすると、家系図なんてものは存在しない。  明然は妖の血が入っている。それは確定していた。  そして、この都麗という人物も妖の可能性が高い人物だ。  それだけは分かるが、確定ではない。  今後事実を確認することも難しいだろう。でも、もし、都麗が現れたら──。  明紅は天界を後にして、妖鬼界へと戻っていた。  戻った先は自分の執務室──、ではない。清陽の執務室だった。  扉の前で「明紅です」と言えば清陽が「入れ」と扉の向こうで言う。扉を開ける前に、春蕾が扉を開けてくれた。 「いらっしゃい。どうしたの?」 「ひとつ聞きたいことがあるんだけれど……明黄って人、うちの一族にいる?」  明紅のその質問に、清陽の表情が曇ったのを見逃さなかった。 「いるんだ」  いる。そして、あまり清陽にとっていい存在ではないのだろう。 「明黄は子供たちの中で一番のバカ息子だよ」 「なんで?」 「明黄の名を知ったということは、胡明一族の始まりを知ったんじゃないか?」 「うん、そうだよ」 「掟を破り、子を作った。だからバカ息子だ。あれほど干渉するべきではないと言ったのに」  明紅はなるほど、そういうことかと思った。  嫌悪や軽蔑の意味は感じられない。本当に呆れている、そのような雰囲気だった。  明黄は清陽にとってみれば世話の焼ける子供なのだろう。 「なんで子を作ってはいけないの?」 「妖怪に転じる可能性がぐんと上がるからね。まあ……今のところ胡明一族から妖が出たなんて話は幸い聞かないから問題なかったのかもしれないけれど」  清陽は知らないらしい。明紅は妖に転じる可能性のものが一人いることを知っていた。 「また呆れさせてしまうかもしれないけれど、胡明一族から妖に転じそうな可能性のある人物を知っている」 「うそ」  そう声をあげたのは清陽でもなく春蕾だった。  春蕾は清陽の右腕でもありながら、最愛の夫。そして、明黄にとってみれば肉親だ。 「ああ……ほんとう、全く……なにしてるの」  呆れたように大きなため息をつく春蕾に、困ったような笑みを向ける清陽が言った。 「もう仕方ない」 「その子はどうしているの?」 「あまりいい生活はしていないけれど、なんとかやってると思う。でも、気になるのはその人物が祖先に我々一族の血を引く以上の妖の力を持っていることなんだ。おそらく、一人や二人だけの血じゃないよ。実の母親だって妖かもしれないし」 「誰だ?」という清陽の問いに、明紅は「胡明然」と答えた。 「皇族?」 「一応。でも、皇位継承権は持っていない」  しかし、皇帝になる人物でもある──とは言わなかった。言う必要を感じなかったからだ。とはいえ、いつか知ることになるだろう。 「その明然という人物が変な動きをしないように見ていてくれないか?」 「もちろん」  変なことはしない。それは明紅にはわかっていた。  明然がなにもしなくても、明然を利用しようとする悪い存在は近づいてくるだろう。  守らなければいけない。必ず。

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