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第28話
人間界の時間が夕方を過ぎたころ、明紅は明然の自宅へとやってきた。
扉をどんどん、と叩くと使用人がにこやかな笑顔で出迎える。
「明紅さまですね。お待ちしておりました」
明紅は驚いていた。
なぜなら使用人がいるとは思っていなかったからだ。
それもそうだ。さすがに一人ではこの家は管理しきれないだろう。
平屋のこじんまりとした一軒家でではないのだから。
明紅は家の中に入った。すると、走ってくる足音が聞こえてくる。
その音に頬を緩めてしまった。
「明紅兄さん!」と、明然が姿を現す。
「突然悪いね」
「いいんだ。むしろ嬉しいよ」
使用人が頭を下げて下がると、明然が居間のほうへ案内してくれる。
居間では香が焚かれている。薔薇の香りがふんわりと香り、甘い匂いが鼻孔をくすぐった。
「兄さん、仕事って?」
にこにことした人懐っこい笑顔を振りまく明然は、明紅が来たことがたまらなくうれしいようだった。
それは明紅自信からしても疑いようのないものだ。
うれしいという感情が全面に出ていて、それを疑うことをするならば、自分の能力を疑うというものと同義だった。
「実は、今の後宮である妃の宮の周りを夜な夜な徘徊する幽霊がいるので、なんとかしてほしいという祈祷があった。君の協力が欲しい」
「後宮に入りたい?」
「そうだね。後宮に入りたい。そうじゃないと仕事ができない。昔の後宮と今の後宮は場所が違うんじゃないか?」
「うん。皇都は移動したよ」
「なのになぜだろう? 天狐さまへの祈祷があった。後宮からなのかもわからないのだけれど、祈祷した人は女性だ」
明紅の仕事の話に、明然は真剣な顔をしながら何度か頷く。
「後宮に天狐さまの神像があるか調べてみようか?」
「まずは、そうだね。もしあったら後宮に入るのも容易くなる。まあ、正式に出入りできるならしたいけれど」
そう言うと、明然は顎に手を置きながら「ああ」と呟いた。
「もしかしたら入れるかもしれない」
「本当に?」
「うちの一族が拝むのは天狐さまじゃなく、明紅兄さんだよ」
それには思わず目を見開いた。
しかし、それはお世辞なのだろうと思って「そうか」と答えたのだ。しかし、明然は真剣な顔をして「本当なのに」と言う。
「本当に、私たち一族の天狐さまは明紅兄さんなのに」
「……」
明紅は思った。
もしかすれば、この祈祷は明紅を指名する形で行われたのではないかと。
そうであれば、これから先、明紅は月沈国への出入りが激しくなるだろう。
自分が月沈国の専属になるとなんて言わなくても、大きい依頼も小さな依頼もすべて明紅に任されることになる。
そうすることで、明紅はこの国で大きな力を持つ妖狐となり、独立する羽目になる。明紅は全く独立しようなどと思っていないと言うのに。
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