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第2話

翌日の放課後。リュートは生徒会室に行く前に教室の中で視線を巡らせた。教室の後ろの一角に人集り。ティルのいる場所は目立つ。どう声をかけようかと思案していると、廊下から生徒会書記のセラが手を振っている。リュートは手を振り返した。 ああ。ティルに、本当に妖退治に関わるならいくつか説明しておきたいこともあるので、本当は声をかけたい。だが、人集りを見ると一歩の勇気が出ない。未だに生徒会長として人の前に出るのが嫌なリュートは、こういうときに自分を情けないなと感じてしまう。それこそ、ティルのように、物怖じせず、人の輪の中に飛び込んでいけたらどんなにいいだろうか。 勇気を出して、ティルのいる輪の外周に立つ。人の壁が厚い。困ったなと鞄を握り締めていると、 「どうしたの?」 教室に入ってきたセラが、きょとんと問いかける。 「不良の集まりじゃない。注意しないの?」 「不良じゃないよ。そんな言葉で一括りにしないで」 リュートは、少し強めに彼女に告げる。面食らったらしいセラは少しだけ身を引いていた。 大きく息を吸って、ふっと腹に力を入れる。そして、人集りの方へ……ティルに声をかけるべく、あの、と声を出した。途端、しん、と人集りが沈黙する。輪の中心にいたティルが、お、と声を上げた。 「リュー」 「生徒会長様がなんの御用だって?」 だが、ティルが声を出す前に、ティルの隣に立っていた男子生徒がリュートに絡んでくる。注意する意図はないので違うよ、と言おうとするが、向こうの方が少し早い。 「俺達を注意しようってのか?」 「えー。マジでウザ。優等生様はどっか行ってよ。せっかく楽しかったのに台無し」 「邪魔すんなら相手すっけど?」 「やめとけよ!優等生様が一瞬で床に転がるって!」 ぎゃははははは!と笑い声が上がる。ああ、こういうの苦手だな、と思って視線を下に落とす。 「いい加減にしとけよお前ら」 ティルの声が、輪の声を一瞬で鎮火する。 「けどティル」 追いすがる男子生徒に黙れ、と一言告げて、ティルは言った。 「リュートは俺のダチだ。酷ぇことばっか言うなら俺も黙ってね―からな」 ぱちくりと大きく瞬きして、リュートは、は、と小さく息を吐いた。 (……ともだち) 胸が温かくなる。鞄を持っていない方の手が、じわりと血が通って熱くなる。頬に僅かに熱を感じながら、その言葉を噛み締める。 「……ティル」 「おう、リュート。何か俺に用なんだよな?廊下出るか」 よ、と掛け声一つ、大きなリュックを肩に引っ掛けて、輪の中からティルが出てくる。呆然と残された不良たちを振り返って、 「今まで楽しかったわ。じゃ」 ひらりと手を振って、リュートの肩に手を回した。 「行こうぜ」 「う、うん」 「何だよその反応」 「……ちょっと驚いて」 「そうか?まあいいや」 廊下に出る。開口一番、リュートはティルに言った。 「いいの?お友達だったんでしょ?」 ティルは、あー、と言いながら頭をがしがしとかいて、 「潮時だったんでな。いいんだよ」 「潮時?」 「ああ。ああいうノリ、俺向いてね―しな」 そう言うと、セラがティルに向かって、言った。 「どの口が言ってんのよ。不良集団の頭のティルって言ったらあんたのことでしょ?他校との喧嘩、近隣町内での喧嘩、全部あんたが絡んでるのは有名なんだから」 リュートも一応、そのことは知っている。ティルは体格に恵まれていることと本人の才能もあって、喧嘩が非常に強く、大人も打ち負かしていたと聞く。それが職員会議で問題になっている一方で、ティル本人が成績良好なのも相まって、処分が難しいと、先生の愚痴を聞いたこともある。 「ティルが裏切って俺達の情報を抜くことにメリットもないし、仮にティルが生徒会にカチコミだって言っても、特に問題ないしね」 「おいおい、俺の実力過小評価されてね?」 ティルがずいっとリュートに顔を寄せる。リュートは苦笑いして、言った。 「ティルは俺に勝てないと思うから」 「はあ!?」 鼻先でティルがひっくり返った声を出す。ふふ、と小さく笑って、その鼻先を指先で押し戻す。 「いいから、生徒会室行こう。話はそこで、ゆっくりね」

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